たまに、夜中に目を覚ます時がある。
数は日を追うごとに減っているけれど、それでも寂しさに耐えられない時があるんですの……
「…沙都子、どうかしたのですか?」
「あっ…梨花……な、何でもありませんのよ!」
真夜中、沙都子はいつの間にか布団から抜け出し、窓からじっと外の景色を眺めていた。
私が後ろから声をかけると、沙都子は腕で目を擦り、すぐにいつもの笑顔を私に向ける。
………また、泣いていたのね。
沙都子は、たまに夜中に布団を抜け出し、外を見ながら泣く事がある。
朝起きると、いつもの笑顔に戻っているけれど。
「いいんですよ、泣きたい時には泣いても……誰も何も言わないのです」
「ち、違うんですの!泣いてなんか……」
「沙都子………」
「泣いてなんかいませんわ……」
もう、私は泣き虫じゃない。
もう、私はもう甘えたりしない。すがったりしない。もう、同じ過ちは絶対に繰り返したりしませんのよ……
「泣きたい時に泣かなければ、人は一体いつ泣けばいいのです」
「…………っ!」
「悟史も、きっとボクと同じ事を言うと思いますよ」
梨花が優しく微笑みながらそう言うと、沙都子の目からポロポロと大粒の涙が落ちた。
「会いたい…にーにーに…会いたいですの……っ」
「…………。」
「一体今何処に居るのか…早く帰って来て欲しい……」
「…………。」
「わたくし、にーにーと過ごした最後の瞬間まで…全て覚えてましてよ」
「最後の………瞬間?」
沙都子は、窓の外に浮かぶ星を眺めながら嬉しそうに話し始めた。
「にーにーは普段どおりに言いましたわ……いつもの笑顔で『行ってきます』って。
そして、『僕が帰って来るまでいい子にしてるんだよ』って…わたくしの頭を撫でながら、優しく……っ」
にーにーがちょっと買い物に出てくる、と言って。
わたくしが玄関まで見送りに行ったら、いつもの笑顔で『行ってきます』と言ってくれた……
『僕が帰って来るまでいい子にしてるんだよ』って、言ってくれたにーにーの優しい声は、
今まで一瞬だって忘れた事はありませんでしたわ。
会えなくなっても、どんなに時間が経っても、
にーにーと過ごした日々の記憶は鮮明ですわ。脳裏に妬きついた、にーにーの笑顔も声も。
「ねぇ、梨花……わたくし、にーにーとの約束守れてます?
いい子にして、にーにーの帰りを待つことが出来ていますかしら……?」
「沙都子はいい子にして待ってるですよ…今も昔も沙都子はいい子なのです」
「…昔は、悪い子でしたわ。にーにーをたくさん傷つけて、追い詰めたのは……わたくしですもの」
「それは違う…昔の沙都子は、少しだけ臆病だっただけなのです。
それは悟史も分かってる……だから、沙都子が思い悩む必要など、ないのですよ…」
「ありがとう、梨花……」
梨花の言葉に、わたくしがどれだけ救われたか。
でも、わたくしの罪は消えませんわ……
ずっと、ずっと、後悔しながら生きて帰りを待つのが、私の出来る唯一の罪滅ぼし……
そんな事じゃ全然足りないのは分かりきってますわ。
にーにーがどれだけ傷つき、追い詰められたのか……わたくしは失うまで気づけなかった。
(この罪は、一生消えない。)
「…悟史は、きっと帰って来ますです」
「えぇ。わたくしは、信じてずっとずっと待ち続けますわ……」
そして、一人前になったわたくしを見せてあげるんですの……
もう2度と、何処かへ行ってしまわないように……
ずっとずっと、一緒に居られるように―――――
ねぇ、にーにー……
もし帰って来たら、まず最初に『ただいま』と言ってくださいませ。
…そして、頭を撫でて欲しい
わたくしは笑顔で言いますわ、『おかえりなさいっ!』って
その日が来るまで、私はこの雛見沢で、どんなに…………
寂しくても悲しくても、貴方の帰りを待ち続ける
(だから、お願い。にーにーの優しい笑顔を、声を、もう1度……)
>>あとがき
沙都子と梨花のお話。
1度書いて見たかったんです…悟史が失踪してから、沙都子は本当に強くなったことを。
悟史はきっと失踪の当日、いつも通りに出かけたんだと思うんです。
沙都子のために、ぬいぐるみを持って、笑顔で戻ってくるつもりだったのに……
どんなに信じて待っていても、きっと寂しくて泣いちゃう夜もあると思う。
その涙を誰にも見せない事が強さだと勘違いしている沙都子と、それは違うという梨花。
沙都子の台詞…難しい……っ(苦笑
長い台詞だと困った事になりましたね…梨花ちゃんも難しい。あんなに可愛いのに…っ!
では、ここまで貴重な時間を使ってお読みくださりありがとうござました☆
-2008.07.07-