僕はまた新たな罪を犯そうとしている…
 
どうしてこの衝動に打ち勝つことができないのか、僕にも分からないんだ。
 
 
だけど、昔僕が手をかけたのは憎み恨んだ相手だった。
今回、僕が手をかけようとしているのは、憎み愛する人だった………
 
 
 
 
 
 
 
殺 し た い ほ ど 、 し て る
 
 
 
 
 
 
 
僕がバットで叔母さんを殴り殺した後、僕はものすごく後悔した。
何に後悔したのか分からない。僕は正しいことをしたじゃないか……
自分の手を血に染めてまで、沙都子と自分を守ろうと、必死に頑張ったじゃないか。
 

誰も助けてくれなかった。
誰も手を差し伸べてくれなかった。
だから、自分でやるしかなかった。
 
他に何かいい方法があっただろうか?
僕たちが救われる方法が、他に何かあった……?
 
 
 
 
 
もし、あったなら誰か僕に教えてください。
 
 
 
 
 
何か他の方法があったとしたら、気づけたとしたら、僕は2度と間違えなくて済むかもしれない。
 
 
また、同じことを繰り返さなくて済むかもしれない………
 
 
 
 
 
 
 
「悟史くーんっ」
「あ、詩音。どうしたの?」
「私はお買い物の帰りです…悟史くんこそどうしたんです?興宮までわざわざ…」
「僕は、ちょっと散歩…かな。気分転換に」
「気分転換?」
「あ、いや……なんでもないんだ
 
 
 
気分転換に出た散歩。雛見沢から少しでも離れたかった。
僕にとって、雛見沢は故郷であり、辛い思い出ばかりが目につく嫌な場所。
 
(それでもここに戻って来てしまう……どうしても、離れられないんだ。)
 
 
 
「あ、悟史くん!暇だったら私とお茶でもしません?」
「え、えっと………」
「…駄目ですか?」
「駄目じゃないよ!」
「じゃぁ、決まりですねっ!」
 
 
 
園崎詩音。僕は彼女のことが好きだ。
彼女が居てくれたから、僕はこの日常に戻ることができた。…彼女が居なかったら、僕は2度と目覚めなかっただろう。
 
 
でも、僕は彼女の事を恨んでる。
違う。彼女を恨んでいるというよりも、彼女の血を恨んでる。
園崎家…御三家のひとつで、雛見沢では絶対的な地位を確立し、その他色々なところに影響力を持っている。
物凄い家だ。…そして、僕たち一家を苦しめた家だ。
 
 
 
(こんなに好きなのに、こんなに憎い。)
 
 
 
矛盾した感情が爆発しそうだった。
もう抑えきれないほどに、彼女への愛と憎しみでおかしくなりそうだ。
こんなに好きで好きでたまらないのに、こんなに憎くて憎くて…………
 
 
 
 
「…悟史くん?」
 
 
「えっ…あ、どうかした?」
 
 
「…もしかして、私と一緒に居てもつまんないですか?」
 
 
「そ、そんな事ないよ…!」
 
 
「ならいいんですけど……」
 
 
 
 
そんな顔しないでよ。
君への罪悪感と恋心が交じり合い、自分でもどうすればいいのか分からない。
彼女は悪くないのだ。彼女は、何も悪くない。
でも、それを素直に認められるほど、僕は大人じゃないんだ。だからこそ、怖い。憎い。恨めしい。
 
 
 
 
 
「悟史くん、ちょっとだけ私の家に寄って行きません?
 …っと言っても、家出中なので小さくて、こじんまりとしたアパートの一室なんですけどね」
 
 
 
 
 
園崎家が僕たちを地獄の底に突き落としたんだ……
お父さんやお母さんを村ぐるみで苛め抜こうと命令したのは園崎家。
 
僕たち兄妹もどれだけ傷ついたか………!
園崎家が…園崎家さえ、あの時あんな事を命令しなければ、僕はしたくもない人殺しをしなくて済んだかもしれないのに……っ!!
そうだ。そうに決まっている。園崎家さえいなければ、僕達家族は平和に暮らせたんだ。お父さんとお母さんが死んだりしなかったんだ。そうなれば、叔母さん達に引き取られる事もなかった…!!


(僕や沙都子が、叔母さん達に苛められることも、なかった ――――。)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ソ ノ ザ キ ケ ダ ケ ハ     ユ ル セ ナ イ ―――――
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「悟史くん…やっぱり、何か様子が………」
 
詩音の言われるがままにアパートの一室に入る。
そこには必要最低限の家具があり、大きなベットが真っ先に目に付いた。そして、詩音が心配そうに僕に近づいてきたその瞬間……
 
 
 
 
 
 
僕は、詩音をベットに押し倒して、彼女の首を締め上げた。
 
 
 
 
 
 
「さ、と……く……っ!!」
 
 
 
ぎりぎりと首が絞まる音が聞こえる。あぁ、あの時と同じ感触だ。
あの時、叔母さんを殴り殺した時と、同じ感触。
……しかし、あの時と同じ感触なのに、何かが違う違和感。


(あ、れ………?どうして、君は……)
 
 
詩音は、一切抵抗していなかった。…自分が、殺されようとしている事が分かっているのだろうか。
部活の罰ゲームとかじゃないんだ…本当に、死の危険が迫ってるんだよ?
抵抗しなよ、大声で叫べよ!助けを呼べばいい!出来れば、そのまま僕を殺してくれないか?
もう嫌だよ。こんな世界で、こんな汚れた僕は…………
(どうして僕を起こしたんだ。ずっと、ずっと眠っている方が楽だった。もうこれ以上苦しまなくて済んだ。そう、全部詩音のせいだ…………!!!!)

………僕は君の事、こんなに憎んでいるのに。ねぇ、どうして?どうして君は、
 
 
 
 
 
詩音は、僕に向かって微笑んでいた。
 
 
 
 
 
それに驚いて、僕は少しだけ手を緩める。その時、
 
 
「悟史……くん………」
 
「詩音………」
 
「悟史くん、……大丈夫……だよ……」
 
「詩音………っ…」
 
 
 
 
 
 
「ありがとう、大好きだよ……」
 
 
 
 
 
 
詩音の頬に涙が一筋伝った。
 
あの時とは違う。
 
 
 
 
叔母さんは恐怖におののき、僕を恨んで死んでいった。
 
でも、詩音は全然違う。微笑んで、どうして僕なんかに“ありがとう”なんて………。
…何が違うんだろう。同じ人殺しなのに、どうしてこんなに胸が苦しいんだろう。張り裂けそうなほどに。
詩音、ごめん。ごめんよ………涙が止まらない。

(叔母さんを殺した時は、涙なんかでなかったよ……?)
 
 

そっと詩音の首から手を離した。詩音は、苦しそうにゴホゴホと咳き込んでいる。



「詩音………………」



君の事が、大好きだったのに………
 
好きで好きで堪らないほど。
 
 
 
 
 
あぁ、そうか………僕が君を殺したいと思ったのは、君を、君の血を恨んでいたからじゃない。
 
 
 
 
 
(君の事を、殺したいほど愛していたからなんだ。)
 
 
 
 
 
 
 
 
 




>>あとがき

もともとこの話は、悟史が詩音を殺してしまう話だったんですが、読み返してみると何か微妙だったので、書き換えて結局トドメは差さない感じになりました。詩音生きています。(2009/02に書き直し)
前回のも結構気に入ってたんですが、こっちの方がいいかなと。
でも、同じような話いつか書いてみたいです。 
 
まぁ、詩音は悟史に殺されても、最後の最後まで、笑顔で逝くと思います。
レナは圭一を信じて、救おうとしましたが、
詩音は悟史を信じて、受け入れるんじゃないかなぁ。
どっちも強くないと出来ませんけどね…!
 
では、貴重な時間を使って、ここまで見てくださってありがとうございました☆
 
-2008.07.16-
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