知りすぎた屈辱
 
全てを分かった上で、決まっている事を繰り返す事は、屈辱以外の何物でもないわ……

 
 
 
 
 
 
無 限 回 廊
 
 
 
 
 
 


4度目の祟りが起こる日……そう、今日は綿流し当日。
 
私は知っている。
今日で、沙都子の辛いが事がなくなる。その代わり重い重い罪という名の十字架を背負う……。
兄の悟史が、沙都子を苛めていた叔母をバットで撲殺する日なのだ。
 
 
 
 
…私はどうしたいの?
 
今まで、黙ってこの日が通り過ぎるのを待っていたけど、本当にそれでいいの?
 
 
 
 
今日から、沙都子は笑ってくれる。
もう叔母は居ないから。
でも、しばらく経つと悟史も居なくなる………
 
 
 
 
沙都子にとっては、良かったのかもしれない。
 
誰かにすがる事をやめ、自分の足で立とうと決意したのだから。
 
 
 
 
 
 
 
でも、悟史が居なくなるという事は、本当の意味で、沙都子にとって良い事なの………?
 
 
 
 
 
 
 
分からない分からない分からない分からない。
 
だからこそ、私は今まで見てみぬフリをしてきたのではないか……
何度も何度も何度も何度も何度も………無限に。
 
 
 
 
 
でも………っ
 
 
 
 
 
「悟史!!!」
 
「…梨花…ちゃん………」
 
「何処に行くですか?」
 
「えっ?ちょっと用事があって……」
 
「バットを持って……ですか?」
 
「…………っ」
 
 
 
 
とことこと悟史に近づいていく。
 
 
 
 
 
「ボクには分かっているのです…これからの未来が」
 
 
 
 
 
何度も何度も繰り返した。そして、今回もまた……同じ事を無限に繰り返すのか?
悟史をここで止めれば、この先の惨劇も回避出来るだろうか。
 
それとも、やっぱり私は誰かに殺されてしまうのだろうか……?
 
 
 
 



「…ボクは、来年の6月に誰かに殺されるのです」


 
 
 
 
何度も繰り返した…まるで出口のない無限回廊のように。
でも、私はその先の未来に辿り着きたい……
 
 
 
これは、私の我侭かしら?幸せになりたいと望んじゃいけないの?それが私の罪なの?
 
 
 
「その時、悟史はボク達の傍に居ないのです。…沙都子の傍にも」
「…………。」
「悟史、叔母を殺すのを止めて欲しいです…沙都子の傍に居てあげて……」
「梨花ちゃん…僕がやらないと、誰が沙都子を守る?
 今日しかないんだ…僕が祟りを起こせるのは。今日さえ乗り切れば明日から…僕も沙都子も救われるんだよ……?」
「…悟史は、もし自分が殺されると分かっていたらどうしますか?」
「殺されないように頑張るよ」
「それでも駄目だったら……?」
「駄目な事なんてあるもんか。頑張ればきっと……」
 
 
 
そんな言葉、私にとっては机上の空論でしかない。
 
 
 
 
 
 



「ボクは駄目でしたよ…何度も何度も、何度も頑張りましたけど無理でした。
 ボクは警告します。悟史は叔母を殴り殺した後、鬼隠しに遭います。……そして、沙都子にはもう2度と会えないですよ」


 
 
 
 
 
強くなった沙都子には、2度と会えないですよ……?
 
 
 
「梨花ちゃん………」
「……………。」
「ねぇ、梨花ちゃん…君はさっき言ったよね。何度も何度も頑張ったって……君を殺すのは誰なの?」
「…分からない。でも、仲間が壊れた時…世界が狂う」
「仲間………」
「……………。」
「その仲間を殺せば、君は死ななくてすむんじゃないの?」
「…………っ!」
 
 
 
 
 
 
「僕をここで殺せば…叔母を殺す者は居なくなる。もしかしたら、この先の運命を変えられるかもしれないよ……?」
 
 
 
 
 
 
 


サ ト シ を コ コ デ コ ロ セ バ ――――?

 
 
 
 
 
 
 
「バカにしないでっ!!!」
 
「…………。」
 
 


「私は、幸せになりたいの!!生きたいんじゃない……幸せに!

 仲間を殺して…仲間が居ない世界で幸せになんてなれないわ……っ!
 誰1人欠けない…そんな世界でなければ意味がない……っ!」

 
 
「………だよ、ね……」
 
 
 
仲間を殺して手に入れた生など何の意味があるの―――?
 
 
 
誰一人欠けてはいけない。
 
 
誰か1人でも欠けている世界なんて無意味。
 
 
 
 
 
沙都子も、圭一も、レナも、魅ぃも、詩ぃも、そして……悟史も………
 
 
みんなが居てこその幸せだから――――。
 
 
 
 
 
「…ありがとう。じゃぁ、僕行くよ……」
「行ってしまうの……?」
「うん。もう決めた事だから」
「…………。」
 
 
「でも、僕は戻ってくるよ。必ず。たとえ鬼隠しで消えても、必ず戻ってくる……」
 
 
「悟史………」
「ねぇ、最後にいいかな?僕が消えた後、沙都子はどうなる?」
「…………。」
「笑顔で居てくれるよね、きっと」
「……えぇ、笑顔で強くなって、貴方の帰りをずっと待ってる……ずっと………」
「…良かった。ありがとう、僕が戻ってくるまで沙都子のことをよろしく頼むよ」
 
 
 
 
私は悟史の決意に勝てなかった……
きっと、私がどんなに説得しても、泣き叫んでも、くじけないだろう。
それくらい…悟史の決意は強かった。
 
 
 
そして、やはり繰り返される。何度も何度も何度も同じ事を………
 
 
 



悟史は行ってしまった。そして、綿流しの日に事件が起きて、何時ものように悟史は失踪する。
 
 
 
 
 
 



「……羽入、居る?」
 
 
梨花………
 
 
「悟史は戻ってくると思う?」
 
 
分からないのです………
 
 
「私は、戻ってくると思う。きっと……いえ、必ず」
 
 
 
 
 
 
ねぇ、悟史……貴方は何を望んでいたの?
 
失踪すると分かっていながら、それでも叔母を殺しに行ったのは何故?
 
 
 
 
…気になるわ。
 
だから、未来で会えた時に尋ねるわね。
 
 
 
私の望む世界には……幸せな未来には、貴方も居るから。
 
だから、その時が来るのを楽しみに待つ事にするわ。
 
 
 
 
 





何度も何度も無限に繰り返す……
 
 
 
それは無限回廊という名の私の死の運命――――
 
 
 
 
 



(幸せになりたい。そう望む事が私の罪ならば、私はその罪を受け入れましょう。)

 
 
 
 
 
 
 
 
 
>>あとがき
 
多分、最初の方は梨花ちゃんも悟史が叔母を殺すのを止めるように説得してくれたと思うのですよ…
綿流し(っというか目明し?)は、スルーしてましたが。
それに、どの話でもやはり悟史の失踪は根源にあって、
何処かを正さないと、惨劇は回避できない。
 
だから、梨花ちゃんは最初の方は物凄く頑張ったと思う…
でも、100年も同じ事を繰り返すと疲れちゃったのでしょうね。
気持ちは分かります……。
 
そして、少し不安なのは実はこの時点で皆殺しと祭囃し編をまだ見ていないことです(苦笑
内容とか最後とか、謎は分かっているんですけど。
羽入とか出してみたんですが、合ってるのか不安だ……
 
では、ここまで貴重な時間を使って読んでくださり、ありがとうございましたっ!!
 
-2008.07.21-
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