詩音は、今日も沙都子達が住む北条家に遊びに来ていた。




 
   
 
 
沙都子とねーねー
 
 
 
 
 
 
 
 
「はぁ………」
「何なんですの?そんな深いため息をついて…」
「恋する乙女の切ない恋の悩みですぅ」
「はい?な、何ですって?」
「つまり、お子ちゃまの沙都子には一生分からないって事ですよー」
「聞き捨てなりませんわね、その言葉!!」
 
 
詩音はまるで自分の家のように、ごろごろと居間でくつろいでいる。
それを見ながら沙都子ははぁ……っと詩音に分かるようにため息をついた。しかし、こっそりと笑っている。
 
 
「どうせ、またにーにーの事でしょう!?」
「えっ?分かります?」
「分かりますわよ、きっと雛見沢の人なら全員分かると思いますわ」
「ええっ!?そうなんですか!?」
「分からないのは、にーにーだけでしてよ」
 
 
それにしても、我が兄ながら詩音さんの猛烈アタックに、まったく気が付かない鈍感さには感服ですわ。
毎日毎日、あれだけ言い寄られて気づかないんですもの……
 
そういえば、ちょっと前にも……
 
 
「さっとしくーん!」
「あっ…おはよう、詩音。」
「悟史くん好きです、好き好き!だから、ずっとブロッコリーとカリフラワーの見分けつかないでくださいねっ」
「むぅ………?」
 
 
まったくどんなアピールの仕方してますの!?
冗談なのか本気なのかイマイチ判別が出来ませんわ。……まぁ、多分本気なんでしょうけど。
 
 
 
 
 
 
今、その当の本人である悟史は、同居人の梨花と一緒に買い物に出かけている。
 
 
「私も悟史くんとお買い物行きたかったですぅ…」
「をーほっほっほ!残念でしたわねぇ、入れ違いですわ」
「何でそんなに嬉しそうなんですかっ!!」
 
 
 
詩音はきちんと座りなおして、横でお茶をすすっている沙都子を真剣な目で見た。
 
 
「沙都子……ちょっと聞いて欲しいことがあるんです」
「何ですの?」
「ちょっ!人が真剣な話をするんですから、テレビは止めてください!」
「あっ…今良い所ですのよ!?」
「子供が、こんなドロドロの昼ドラ見るんじゃありません!」
「うぅ〜っ!」
 
 
そして、テレビを消して……
 
 
 
 
 
「私、悟史くんの事が好きです……!」
 
 
 
 
 
(何を今更……そんなのずっと前から承知していますわよ…)
 
と思いながら、沙都子も実は気になっていたのだ。
兄である悟史と、その兄を一途に好きだというこの少女のことが。
 
 
「それは…どっちの意味でですの?」
 
「えっ……?」
 
「それは、友達としての好きなのか、恋人としての好きなのか…わたくしには判別出来ませんわ」
 
 
 
 
 
 
 
 
「私は……悟史くんの恋人になりたい、と思っています」
 
 
 
 
 
 
 
沙都子が次の言葉を言おうとする前に、詩音は……
 
 
 
 
「でも、恋人じゃなくてもいいとも思っています」
 
 
「どっちですの!?」
 
 
 
 
 
「だから……私は、悟史くんがずっと笑顔で……その、幸せになって欲しいだけなんです。
 好きだから、幸せになってもらいたい……そりゃあ、私だって悟史くんの傍に居たいですよ。
 でも、私以外の人が一緒に居ることで…悟史くんが幸せになれるなら、それでもいいんです……」
 
 
 
 
 
「詩音さん………」
 
 
「もちろん、私に振り向いてもらえるよう、努力はしてるつもりですけどね〜」
 
 
 
にーにーが居なくなってから、詩音さんはわたくしに『一緒に待ちましょう』と言ってくれた……
本当に、嬉しかったんですのよ。
 
にーにーが居なくなって、圭一さんが引っ越してきて、にーにーの面影はどんどん失われていく。
それなのに、2人でいつまでも待とう、と言ってくれた。
わたくし1人が待っているんじゃない、詩音さんも、他のみなさんも、一緒に、にーにーの帰りを待つと言ってくださった。
 
 
わたくし、本当に嬉しかったんですから……
 
 
 
 
「ねぇ、沙都子……悟史くんは、今本当の笑顔で笑っていますか?」
「どういう意味ですの?」
「ほら、悟史くんって…辛くても悲しくても全部自分の中に背負い込んで、無理して笑うじゃないですか。
 だから……たまに、心配になるんです」
「詩音さんは、本当ににーにーの事が好きなんですのね」
「………っ」
 
 
 
「大丈夫ですわ。にーにーは今はもう辛くない。本当の笑顔で、毎日幸せに暮らしていますわ。
 だから、大丈夫……だって、傍にわたくしも……それに、詩音さんだって居るんですもの」
 
 
 
 
「沙都子………っ!」
「く、苦しいですわっ…いきなり抱き締めないでくださいまし!?」
「本当は嬉しいくせにっ」
 
 
「ただいまー…あ、詩音来てたんだ」
 
 
「悟史くん……!」
 
 
悟史の姿を見つけるが否や、詩音は沙都子を床に放り出し悟史にくっつく。
 
「おかえりなさい、悟史くん!」
「た、ただいま……」
「家までまっすぐ帰って来れました?迷子になったりしませんでした?」
「むぅ、大丈夫だよ」
「良かったですぅ〜!」
 
梨花はそんな悟史と詩音の横を通り過ぎ、床にへばりついている沙都子の所まで歩み寄る。
 
「沙都子はどうして床で寝ているのですか?」
「こ、これがお昼寝に見えますの!?」
「見えないのです。にぱー☆」
 
 
「こら、沙都子!床でお昼寝したら風邪引くよ?」
「にーにー……」
「そうですよ、沙都子。ちゃんとお布団で寝なくちゃ!ねぇ、悟史くんーっ」
 
 
な、な、な……詩音さん、わたくしを怒らせましたわね!?
戦闘開始ですわ、情け容赦しませんから、覚悟するんですのね!
 
にーにーの扱い方なら、わたくしが一番よく知ってるんですから……!!
 
 
「ねぇ、にーにー……」
「なんだい?沙都子」
「わたくし、今とーっても怖い夢を見てしまいましたの……」
「はぁっ!?」
「だから……わたくし、夜1人で寝るのが怖くて……」
「ちょっ!沙都子…何言ってるんですか!」
「みぃ………」
 
 
 
 
 
「だからにーにー、今晩わたくしと一緒に寝てくださいませんこと?」
 
 
 
 
 
「何言ってるんですかっ!!」
「沙都子………」
「駄目に決まってるじゃな……」
「一緒に寝るのはいいんだけど……」
「いいんですか!?」
 
 
な、何て悔しい仕返しを……悟史くんと一緒に寝るなんて、ズルイです!!
私だって一緒に寝られるものなら寝たいのに……っ、あっ!今沙都子ニヤリと笑いましたね!?
明日、カボチャのフルコースを、沙都子のためだけに用意してやるんですからぁ――っ!
 
 
 
「し、詩音………?」
「みー…詩ぃが怖いのです」
「をーほっほっほ!詩音さん、どうかなさいました?」
「〜〜〜〜っ!」
 
 
 
ちょっとやりすぎましたかしら?まぁ、詩音さんにはこれくらいしないと……
でも、わたくし詩音さんには感謝してましてよ。
にーにーをここまで元気にしてくれたのは、詩音さんの存在があったからですもの……
 
 
だからちょっとだけ、詩音さんにサービスですわ。
 
 
 
「にーにー」
「ん?」
 
 
 
 
 
「わたくし、詩音さんみたいなねーねーが欲しいですわ」
 
 
 
 
 
「さ、沙都子……」
「ねっ?いいですわよね、ねーねー?」
「沙都子―――っ!!」
「ちょ、だからいきなり抱きつかないでくださいませ!?」
 
 
「みー…悟史、顔が真っ赤なのですよ」
「………むぅ」
「ボクは悟史みたいなお兄さんが欲しいのです」
 
そうボソリと呟くと、悟史は梨花の頭を優しく撫でて……
 
「僕も、梨花ちゃんのお兄さんになりたいな」
「にぱー☆」
 
 
 
 
 
明日は、沙都子にカボチャのフルコースを食べさせるつもりでしたけど…止めました。
 
沙都子の大好きな甘くて大きなケーキをご馳走します。
 
 
 
 
 
(ねーねーって言ってくれた事、本当に嬉しかったから……)。
 
 
 
 
「詩音………」
 
「悟史くん………」
 
「いつも、ありがとうっ!」
 
 
 
 
私は、これからも悟史くんに振り向いてもらえるように頑張ります。
 
だって、悟史くんの傍に居たいですから……
 
 
 
そして、いつまでも皆で、こうやって笑っていられるように――――。
 
 
 
 
 
 
 
 
 






>>あとがき
 
沙都子と詩音をメインとして、強制的に悟史と梨花ちゃんを巻き込む話(笑
こういうの好きですー!詩音も沙都子も、こうやって喧嘩してますけど実はお互いのことが大好きなんですよ!
そんな微笑ましい詩音と沙都子が書きたかったー!
 
そして、これは1回書いたんですけど些細なミスで全削除orz
今ここに置いてあるのは2回目に書いた奴です。同じ話を2回書くというのは苦痛以外の何物でもありませんorz
いっそ諦めようかと思ったんですが、話自体は気に入ってたのでもう1度書き直し…
 
ぶっちゃけ1回目の方が良かったです。無念……
 
タイトルもどうしても思いつかず、もうこれでいいや!って感じに『沙都子とねーねー』……
センスがないのは今更ですが、いつも以上にセンスが……orz
 
 
でも、内容的にはお気に入りなのでよしとしよう!1回目のことは忘れよう…うぅ…。
ではここまで貴重な時間を使って読んでくださってありがとうございました☆
 
-2008.08.08-
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