あたたかい腕の中……
 
ずっとここに居たい。離れたくない、ずっと……一緒に………
 
 
 
 
 
 
 
m i d n i g h t
 
 
 
 
 
 
 
「……ん、…しおん、詩音?」
「は…い?」
「起きた?こんな所で寝てると風邪引いちゃうよ?」
「あ…悟史くん?」
 
 
私は未だはっきりしない頭で、辺りを見渡した。すると、ここは北条家らしい。
…あ、そうだった。今日は部活が終わった後、そのまま悟史くんの家に遊びに来て……
ご飯食べて、お風呂入って…
 
それから………
 
 
そのまま居間で眠っちゃってたんだ。
 
 
 
 
 
「あれ…沙都子たちは………?」
「沙都子と梨花ちゃんはもう寝ちゃったよ」
「そうですか、もう子供は寝る時間ですからねー」

「それより、詩音今日どうする?」
「どうするって……何がですか?」
「いや、帰るなら送って行こうと思ってさ。もう10時だから、1人で帰らせるのは危ないし……」
「そ、そんな……!悟史くんを1人で帰らせる方が危ないです!!」
「むぅ………」
 
 
 
私を本家まで送った後、悟史くんはどうするんですか!?
そのまま1人で帰るんですよね……本家からここまで、どんなに急いでも20分以上かかります。
20分もこんな真っ暗な中を、悟史くんが1人なんて……
 
 
危険です!危険すぎです!
 
そんなのオヤシロ様が許しても、この園崎詩音が許しません!!
 
 
 
「だ、大丈夫だよ…僕は男の子だし……」
「駄目です!悟史くんに何かあったらどうするんですか…っ!」
「何かって……」
「しょうがないですねー、今日は私がここに泊まってあげます」
「えっ?」
「それとも、悟史くんが私の家に泊まります?」
「い、いや…それはちょっと!」
 
 
 
そう言うと思いました。
何だかんだ言って、私はただ悟史くんと一緒に居たいだけです。
確かに、1人で帰らせるのは嫌ですけど、何なら葛西でも付き添わせればいいんですから。
 
 
 
私はいきなり彼の目を見ていられなくなって、俯いた。
 
 
 
「詩音………?」
「……悟史くん、好き」
「………っ」
「だから、悟史くんに何かあったら、私嫌です」
「詩音、ありがとう……」
「悟史くん……」
 
 
 
“好き”なんて言葉、そう何度も軽々しく言うもんじゃないかもしれませんけど……。
それでも、何度でも言いたい。伝えたい人が目の前にいて、そして、返事を返してくれる。
そんな当たり前の事が嬉しくて……。

悟史くんはぎこちないけど、私を抱き寄せてくれた。
この優しさが大好き。悟史くんの腕の中って、あたたかいんですよね……。
こうしてるだけで、何だか眠たくなっちゃう。
あ、でも今眠ったらもったいないな……もうちょっとだけ、
 
 
 
 
「詩音一緒に寝る?」
「はい…」
「じゃぁ、行こうか」
「………えっ?い、いいい一緒に!?」
「うん、そうだけど…」
「ちょ、ちょっと待ってください!心の準備が…っ、はぁはぁ…!」
「あはは、詩音ったら大げさなんだから」
 
 
 
 
 
だって、一緒にですよ!?
 
1つ屋根の下で寝られるだけでも十分なのに、一緒の布団でなんて……っ
 
 
 
悟史くん…意外と大胆なんですね……
 
う、嬉しい誤算です……
 
 
 
 
 
「むぅ、詩音……?」
「何でもありませんっ…ただ、まだ心の準備が……」
「心の準備って何だい?」
「だ、だって……っ」
 
 
 
 
悟史くんと一緒に寝るんですから、何ていうか…
精神的な問題でありまして、興奮して眠れないかも。あぁ、でもこんなチャンスほとんど無いんだし…!
それに、ただ一緒に寝るだけよ。
何も無いってば!……まぁ、何かあったらそれはそれでいいんですけど!むしろ、あればいい…なんちゃって。
 
 
 
 
色々な妄想をしながら、詩音は悟史の背中についていく。
 
彼の部屋の襖を開けると、既に布団が2つ用意されていた。
 
 
 
 
「あはは、本当は最初から詩音が泊まると思って準備してたんだよねっ」
 
 
「そ、そうなんですかー」
 
 
「じゃぁ、おやすみ」
 
 
 
ふっ…現実はそんなに甘くありませんよねー
まぁ、お布団を2つ並べて寝られるだけでも良い、と思いますか。
いつか、絶対に悟史くんと同じ布団で……!そう心の中で決心しながら、詩音は大人しく布団の中に入った。
 
 
「電気消してもいい?」
 
「はい、大丈夫です」
 
 
電気が消えると、窓から月の光が差し込む。
悟史が隣の布団に入る時、ちょうど月の光で見えた彼の顔が、とても綺麗でカッコよくて、思わず見惚れてしまった。
詩音の視線に気づいたのか、悟史は詩音の方を向く。
 
 
すると、詩音の顔がぼっと赤くなり、悟史から隠れるように布団の中に潜った。
 
 
 
「どうかした?詩音」
 
「な、何でもありません…っ」
 
「むぅ…でも顔真っ赤だよ?熱でもあるんじゃない?」
 
「だ、大丈夫です!!」
 
 
 
ううぅ、悟史くん反則です……っ、でも………
 
チラッと彼の顔を見ればやはりカッコいい。
もともと綺麗な顔立ちなのだが、最近また更に磨きがかかってきた気がする。
そういえば、悟史くんと沙都子のお母さんは物凄い美人だったらしいし……何か嬉しいような悔しいような。
 
 
 
「詩音…月が綺麗だね」
「そ、そうですね…!!」
「詩音はもう眠たい?」
「い、いえ…何だかドキドキして眠れないっていうか…」
「じゃぁ、しばらく話しようか」
「えっ……?」
「ほら、最近ゆっくり2人で話せてないからさ」
「は、はい…っ!」
 
 
 
それから、悟史と詩音は色々な話をした。
話題は尽きる事がなく、むしろどんどん話題が増えていくぐらいだ。
 
 
「だから、ブロッコリーが緑で、カリフラワーが白です」
「うんうん」
「分かりました?では聞きますが、ブロッコリーは緑ですか?白ですか?」
「緑だよ」
「では、カリフラワーは?」
「緑……だっけ?あれ?」
「違います、白ですってば!!」
「むぅ、難しいなぁ」
 
 
こんな些細な会話のキャッチボール。
 
でも、私はとても幸せだった。彼とこんなふうに話が出来る日が来ることを、ずっと願っていたから。
(私達はこんな当たり前の事さえ、許されなかった。)
だからこそ、今のこの穏やかな時間が十分すぎるほど幸せだと実感出来る。
 
 
 
「詩音は料理詳しいよね…何か得意料理とかある?」
「そうですね…ある程度は作れますよ。まぁ、家庭的な範疇を超えませんけど」
「家庭的な範疇……?」
「お姉は本格的な料理作れますからね」
「ふーん」
「…だけど、私は……」
「僕はそれで良いと思うけど」
「えっ?」
「詩音の料理、今度食べてみたいな」
「つ、作ります!悟史くんが食べてくれるなら、私一生懸命……っ」
「あはは、ほら」
「ほらって…何がです?」
 
 
悟史は寝転がったまま、少し手を伸ばして詩音の頭を撫でた。
 
 
 
詩音はいつも一生懸命で、えらい、えらい……!」
 
 
 
目の前の少女はいつも一生懸命だ。一切妥協したりせず、全てに全力投球。
そうやっていつも頑張っている詩音を褒めてあげたい。えらい、えらいって。

なでなでと頭を撫でられる詩音は、頬をほんのり赤く染めて、悟史にされるがまま。
(悟史くんって本当にあたたかい。このあたたかささえあれば、私、きっと、生きていける………)
 
 
 
 
 
頭を撫でられる気持ちよさに、詩音の瞼は重たくなっていく。
気がつくと、完全に目を閉じて、そのまま眠ってしまった。
 
悟史は詩音が眠った事に気づくと、優しく上から布団を被せて、微笑んだ。
 
 
 
 
「おやすみ、詩音。」
 
 
 
 
そう呟くと、自分も布団の中に潜り、目を閉じた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「朝ですわよー!」
 
沙都子が元気よく、悟史の部屋の襖を開ける。そして、その後ろからひょっこりと梨花が顔を出した。
 
「にぱー☆悟史と詩ぃはぐっすり眠っているのです」
「まったく!土曜だからっていつまでも寝ているのは、健康に宜しくないですわねぇ」
「昨日、悟史たちは眠るのが遅かったのです」
「そ、そうなんですの…?」
「だから、もう少しだけ寝かせておいてやりましょうです」
「分かりましたわ。わたくしは、朝ごはんの準備をして来ますわね!」
 
 
沙都子がぱたぱたと、台所にかけていく。
梨花は部屋を出る前に、チラッと眠っている2人を見て、微笑んだ。
 
 
 
 
「くすくす……2人ともいい夢を。」
 
 
 
 
そう言って、梨花も沙都子の居る台所に向かった。
 
 
 
 
 
窓からは、朝の眩しい太陽の日差しが、2人を優しく包み込んでいた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
>>あとがき
 
サトシオン好きだぁぁああ!!!です。
もうなんていうか、こういう当たり前の風景が異常に書きたくなります。
だって、原作で全然なかったんですもん!!……全然無かったんです(苦笑
 
特に悟史には無かった。
 
だから、悟史にはたくさん幸せになって欲しい。
なれると思います。だって、あんなに一生懸命待ってくれてる人が居るんですから…
そんなめちゃくちゃ愛されている悟史が愛しくてたまりません!!


では、↑に入らなかった会話を。(悟史の部屋で、詩音用の布団を引きながら…)

沙「でも、にーにーと詩音さんが同じ部屋で寝るなんて大丈夫か心配ですわ…」
梨「大丈夫ですよ。悟史にそんな甲斐性ないのです(にぱー☆)」
沙「誰もそんな心配してませんわよ!わたくしの大事なにーにーが、詩音さんに襲われないか心配しているだけですわ!」
梨「みー、それは保障できないのです」
悟「むぅ……2人とも何の話を……」

 
こういうヤマもオチもない小説ばっかり徒然書いてすいません!!!
 
では、貴重な時間を使って、ここまで読んでくださってありがとうございましたー☆
 
-2008.09.08-
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