静 か な 夜 に 
 
 
 
 
 
 


私は悟史くんのことが好き。
大好き。朝も昼も夜も、寝ている間も彼の事を想っている。
 
溢れる想いを抱え、毎日彼にアタックしてみるものの、まっっったく進展がない。もちろん原因は分かっている。
 
 
「悟史くん、大好きですー☆」
「むぅ…僕も詩音のこと大好きだよ」
「本当ですか!?じゃぁ、お姉のことは?」
「もちろん魅音のことも大好きだよ」
「…………。」
 
 
そう、悟史くんは私の好きという言葉を勘違いしている。
私は1人の男性として彼を愛しているというのに、彼はそれに気づいていない。(……と思う。) 
 
「はぁ……毎日好きって言ってるのにぃ…」
「詩音は押しすぎ。恋は押して駄目なら引いてみろっていう言葉があるじゃん?」
「分かってませんねぇ…悟史くんが好き過ぎて引けないんです」
「あはは!詩音は恋愛向いてないんじゃないのー?」
「…それ、お姉にだけは言われたくありませんねぇ」
 
 
お姉こそ、圭ちゃんにいつまで経っても告白出来ないじゃないですか。
早くしないとレナさん辺りに取られちゃいますよ?
 
 
…でも、押して駄目なら引いてみろ、というのは一理アリかもしれませんね。
 
 
 
 
 
 
「あ、おはよう。詩音」
「おはようございます」
朝、悟史くんと玄関でばったりと出会った。
私は笑顔で挨拶をする悟史くんに、抱きつきたいのを必死に我慢して、
出来るだけそっけなく返事を返し、そのまま1人で教室に向かう。
 
「むぅ………」
「あら、詩音さん今日は様子が変ですわねぇ」
「いつもは悟史にベタベタでにゃーにゃーなのです」
「……………。」
 
複雑そうな悟史を見ながら、沙都子と梨花は顔を見合わせてくすっと笑った。
 
 
 
「……詩音」
「何か用ですか?」
「むぅ、用は何もないんだけど……」
 
悟史くんの困った顔とっても可愛い…きゅんきゅん☆
…あ、いけない。今日は引いてみる作戦でした。悟史くんとお話したいけど…物凄くしたいけど、今は我慢。
我慢大会みたいですね、これ。結構辛いんですけど……
 
 
「じゃぁ、私今忙しいので」
 
 
そう言って、とりあえず教室から出てトイレに向かう。
はぁ……悟史くんともっとお話したかったなぁ。これで全然変わらなかったらお姉に八つ当たりしよう。
 
とりあえず入ったトイレの鏡で、今日の容姿をチェックしていると、下の方から声が……
 
 
「にぱー☆詩ぃ、今日は悟史に冷たくする作戦なのですか?」
「梨花ちゃま!!??」
「いつもはラブラブ詩ぃが、今日は何故か悟史に冷たいのです」
「あはは、バレちゃってましたか」
 
私はわざとらしく舌を出して、困った顔をしてみる。
 
 
「…悟史くんは、私の事どう思ってると思います?」
「みぃ……」
「毎日好き好きって追い掛け回してますけど、悟史くんはちっとも本気にしてくれないんです。
 きっと、私の事なんて何とも思ってないんですよ………っ」
「詩ぃ……」
 
その時、後ろのトイレのドアが開いて、
 
 
 
 
「そんな事ありませんわー!」
 
 
 
 
沙都子は自信満々な顔で私の横に来ると、律儀に手を洗い始める。
そして、梨花ちゃまからハンカチを受け取って手を拭いて…
 




………………で。
 
 
 

「わたくしは思うんですけど、にーにーは間違いなく詩音さんの事が好きですわ!」
「ボクもそう思いますですよ。にぱー☆」
「沙都子…梨花ちゃま……」
「ただ…にーにーは容量が悪いですし、鈍感ですわ。
 だからきっと、詩音さんの言葉が本気なのか冗談なのか分からなくて困っているだけだと思いますの」
「それに、1度タイミングを逃すと言いにくいのです…」
「…………本当に、それならいいんですけど。」
 
 
本当にそれならいい。でも、もし違ったら?
そう、それが怖くて私はいつも逃げている。
彼の事が好きだと公言し、毎日追い掛け回しつつも、ギリギリ冗談で逃げられる範囲を保っているのは紛れも無い事実。
 
悟史くんの気持ち…知りたいけど、知りたくない。
このまま友達のままで終わってしまうのは嫌だけど、このまま今の生活が続けばいい。
これって、矛盾だらけですよね……。
 
 
「ねーね……じゃなく、詩音さん!気を落としては駄目ですわっ!」
 
「そうなのですよ。…あ、今晩良かったら、泊まりに来るといいのです」
 
「それはいい考えですわ!」
 
「えっ!?で、でも……」
 
「何も遠慮する事はないのです。ボク達に考えがありますですよ☆」
 
 
沙都子と梨花ちゃまのはからいで、今晩泊めてもらえる事になった。
何はともわれ、悟史くんと1つ屋根の下。それはそれでラッキーですっ
 
 
 
 
 
「悟史くんーっ、私今晩泊めてもらうことになりましたので、宜しくです♡」
「むぅ…そうなの?」
「はい、腕によりをかけてご飯作るんで期待しててくださいねー☆」
 
 
トイレから出た瞬間悟史の姿を見つけ、詩音は上機嫌で駆け寄る。
用件を手短に伝え、今晩のおかずを考えながら詩音は教室に戻った。
 
そして、その場に1人残された悟史は一言。
 
 
「むぅ……詩音、僕に何か怒ってるんじゃなかったのかなぁ」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
そして、その日の夜。
4人でご飯を仲良く食べて、お風呂に入ったり、おしゃべりをしたり、楽しい時間を過ごした。
沙都子があくびをしたのが合図で、そろそろ寝ようかという話になる。
 
「にぱー☆ではでは、お部屋を決めるのです」
「お部屋……?」
「4人居るので、2人と2人で分けましょうという事ですよ」
「4人一緒じゃ狭いですし、3人一緒でも狭いですものねー」
 
ちょっ…梨花ちゃんは上手ですけど、沙都子微妙に棒読みですよ!?
これで大丈夫なんですか…っとチラッと悟史くんの方を見ると、特に何も気にしていない様子。鈍感でよかった……!
 
 
「じゃぁ、早速くじ引きなのです☆さぁ、沙都子先に引くですよ」
「了解ですわーっ」
「次は詩ぃ」
「じゃぁ、これにします」
「みぃ…次は……」
 
梨花ちゃまはチラッと上目遣いで悟史くんを見つめる。う、上手い……!
すると、悟史くんはにこっと笑って、
 
「梨花ちゃんが先に引いていいよ」
「ありがとなのですー!」
「最後に残ったのが僕のだね」
 
そして、何とも予定通りに事が進み、私は悟史くんと同じ部屋で寝る事になった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「うん、静かな夜だね」
 
悟史くんが窓から外を眺めながらそう言う。
 
「そうですね……」
 
私もそう思ったから、素直に返事を返した。
悟史くんと2人きり。敷かれた布団は2枚。壁一枚挟んだ隣の部屋には、既に沙都子と梨花ちゃまが寝ている。
せっかく2人がセッティングしてくれた時間。絶対、無駄にはしませんよ。

「悟史くん…ちょっと、聞いて欲しいことがあるんです」
「聞いて欲しいこと?」
「はい………」
「もちろん聞くよ。何だい…?」

あぁ…何度も何度もイメージトレーニングをして来たのに、やっぱり、恥ずかしいよ……っ。
 
 
 
「私…悟史くんの事が、好きなんです…!」
 
 
「…うん、僕も詩音の事好きだよ」
 
 
 
そう言って頭を優しく撫でてくれる。
…いつもと同じ反応。違うの。そうじゃないよ、私は貴方に、特別な感情を抱いている。ずっと、ずっと前から…。
貴方のことが、好き。1番好き……大好きだよ。
 
 
「じゃぁ……悟史くん」
 
 
でも、貴方の返事を聞くのが怖かった。
今までと何かが変わってしまう気がして、だから、私は貴方に答えを求めなかった。
(ただ傍に居られればいい。ただ気持ちを一方的に聞いてくれていれば、いいと思ってた。)
 
 
 
…今は、怖くない。嘘。怖いよ。
でも、でもね……受け入れてくれなくていいから、どうか私の気持ちに気づいて。
 
 
 
 
 
「キスしてもいいですか?」
 
 
 
 
 
冗談なんかじゃない。生半可な気持ちじゃない。
全身全霊の恋。一世一代、私の命を賭けた恋だから……とことん突き進みたい。
もう後戻り出来ないところまで、突き進む。
 
 
 
「えっ………?」
 
「いいですか?」
 
「む、むぅ……だ、駄目だよ……っ」
 
「どうしてですか。私が友達だから?悟史くんにとっては、私は友達ですか?それ以上には……なれない?」
 
「し、詩音………」
 
「私はこんなに悟史くんの事が好きなのに……っ」
 
 
 
本当に困った顔をして、悟史くんは俯く。
…貴方の困った顔は好きだけど、こうやって思い詰めた顔は見たくない。
ごめんね。やっぱり、私は貴方とただこうやってじゃれあってるだけでいい。それだけで幸せだから。
 
その先を願うなんて、贅沢だったね……。
 
 
 
「なーんて、もちろん冗談です☆本気にしま………」
 
 
 
そうやって誤魔化そうとした時、手首をぐいっと掴まれてそのまま抱き寄せられる。
そして、真剣な悟史くんの顔がすぐ近くにあって……
 
それから………
 
唇に温かい感触がして―――――。
 
 
 
 
「あっ………」
 
 
 
 
状況を把握した時には、既に悟史くんは私から離れていた。
私は今起こった出来事を思い出し、顔がかあぁぁっと赤くなる。気のせいか悟史くんの頬も赤く染まっていて……
 
 
 
「本気に…するよ………」
 
 
 
それだけ言うと、悟史くんは赤い顔を隠すようにそっぽを向いてしまった。
 
今、確かに私悟史くんとキス………っ
思い出せば体温が跳ね上がり、顔が、身体が、熱い……っ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
そのまま2人とも動かず、何も言わない。
もしかしたら数分かもしれない。もしかしたら何時間かもしれない。
時間が分からなくなるくらい、とにかく長い間2人とも黙っていた。
 
気まずい……でも、心地よい沈黙。
一生このままでもいいかもしれない、と詩音が思った時、痺れを切らしたのか悟史が口を開いた。
 
 
 
「詩音………」
 
 
 
その声に反射して、詩音も言葉を発する。
 
 
「は、はい……っ」
 
 
詩音と目が合うと、悟史はもう1度。
 
「詩音」
「はい……」
「詩音……」
「はい……」
「………好きだよ」
「………はいっ」
 
詩音はそのまま悟史の胸に飛び込んだ。
悟史も優しく詩音を受け止めて抱き締める。優しく、いつも頭を撫でてもらっている時のように幸せだ。
気持ちよくて、温かくて、心地よくて………
 
 
 
「……悟史くん。」
「うん?」
「大好き」
「…詩音、ごめんね。」
「えっ?」
「僕、ずっと気づいてた。……でも、返事、誤魔化して逃げて…今までごめん…」
「いいんです…だって、」
 
 
だって、私もずっと逃げていたから。お互い様ですね。…もちろん恥ずかしいから、口には出しませんけど。
 
 
(やっと、私の想いが貴方に届いたんだ……)
 
 
全部全部許しちゃいます。
私、貴方とたくさんお話がしたい。たくさん色んな所に行きたい。
色々な物を食べて、からかって、触れて………頭を撫でてもらいたい。素直で可愛い女の子に、なりたい。
 
 
 
「詩音………」
 
 
 
優しく微笑んで、悟史くんは私の頭を撫でてくれた。その後、同じ布団に入れてくれて、とても温かかった。
 
ずっと、手を繋いでいてくれて、ありがとう。
 
 
 
 
 
(傍に居てくれて、私の想いを受け止めてくれて、笑ってくれて………ありがとう。)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
>>あとがき
 
おまけ*
 
沙「結局2人はどうなったんですの……(ハラハラドキドキ)」
梨「なるようになったと思うのです」
沙「そうだといいんですけど。にーにーは鈍感の上、行動力も積極性もかけてますもの」
梨「にぱー☆詩ぃと足して2で割ったらちょうどいいのです」
沙「そ、そうですけど…」
梨「では、2人の邪魔にならないように早く寝るのです」
 
その後2人は寝て、朝起きて部屋を覗くと2人が一緒に寝ているのを確認。
上手くいったことを知って2人笑ったのでした。めでたしめでたし!
 
 
めっちゃ楽しかったあぁあああ!!!
胃腸炎やらなにやらでしばらくの間、表書いてなかったのでとっても書いてて楽しかった!
小説書くの楽しいな、と久々に実感させてもらいましたっ
 
沙都子と梨花ちゃんが詩音の恋を応援する話が書きたかったらしいです。
あと、後半の詩音が悟史に迫るシーン。「キスしてもいいですか」が書きたかった。
書いてて本当に楽しかったですっ
 
では、ここまで貴重な時間を割いて読んでくださってありがとうございました☆
 
-2008.09.06-
inserted by FC2 system