僕は風が好きだ。
爽やかで、温かくて、時に少し冷たい。
 
でも、こうやってのんびりと歩いている時には、風はとても心地いいんだ。
 
 
 
 
 
 
 

小 さ な 幸 せ を 見 つ け て
 
 
 
 
 
 
 
「さーとし君っ!」
 
いきなり聞きなれた声がしたかと思うと、詩音が僕の背中にぎゅっと抱きついてきた。
背中にあったかい感触がする。
そして、それと同時に、詩音が僕の背中に頬を寄せて、嬉しそうに笑っているのが背中から伝わってきた。
 
 
「だーれだ?」
「むぅ……詩音だろ」
「ありゃりゃ、分かっちゃいました?」
「分かるよ」
「悟史くん、何処に行くんですか?お家は逆方向ですよー」
「むぅ…買い物に行くんだよ」
 
 
詩音は僕の背中に抱きついたまま言葉を連ねる。
最近やっと慣れた。詩音の行動は一つ一つが大胆で。
(ちょっと前までは、詩音が何かする度に、顔を真っ赤にしていたんだ。)
でも、最近は背中に抱きつかれて居ても普通に会話が出来る。僕にも、少しは余裕が出てきたのかな…?
 
 
 
「私もついてっていいですか……?」
 
「うん、いいよ」
 
「嬉しいですー☆」
 
「あの…さ、詩音」
 
「はい?早く行きましょうよ」
 
「むぅ……そうやって抱きつかれていると、動けないんだけど……」
 
 
 
詩音は、そうでした!っと笑って僕から離れる。
僕はそんな詩音の頭を撫でてから、詩音に手を差し出した。
 
 
「……え?」
 
「一緒に買い物行くんでしょ?」
 
「は、はいっ!」
 
 
詩音は嬉しそうに僕の手を握り返す。
2人で手を繋いで、のんびりと歩き出した。本当に、今日はいい天気だ。
 
 
 
 
 
詩音は、僕が目覚めてからいつも一緒に居てくれる。
そういえば、僕が目を覚まして最初に見たのは、詩音の寝顔だった。
僕が目覚めた時、僕の感覚では夜寝て朝起きるぐらいで。
まさか2年近くも眠っていたなんて、自分では信じられなかった。
 
でも、確かに身体は上手く動かせないし、心なしか詩音も大人っぽくなっていたから、
2年近く眠っている事にも合致がついた。でも、それと同時に、少し怖かったんだ。でも、いつも詩音が傍に居てくれたから……。
 
 
詩音は言った。大きな目から大粒の涙を流しながら、
僕に“眠っていた時間を取り戻して欲しい”と。その時のこと、僕は今でもはっきり覚えているよ。
 
 
 
「……詩音」
「はい?」
「僕は…止まっていた時間を……取り戻してるのかな……」
「……悟史くんはどう思います?」
「僕は、取り戻してると思う」
「だったら、私もそう思いますよ」
 
 
 
買い物に行く。一緒に行く。
たったそれだけのこと。
普通の人には当たり前で平凡な事。でも、私達にはかけがえのない事。
 
だからこそ、この当たり前で平凡な日々が愛しいと感じる。悟史くんが帰って来てから、私は毎日幸せだ。
こうやって手を繋いで、一緒にお買い物に行く。
たったこれだけの事なのに、それが私は嬉しくて愛しくて……しょうがないんです。
 
 
 
 
「詩音は優しいんだね」
 
 
 
 
悟史くんは立ち止まって、もう1度私の頭を撫でてくれた。
優しくて、温かくて、とても心地よくて、無意識に頬が赤くなる。
悟史くんの掌は、どうしてこんなに気持ちがいいのかな?
 
ずっと、撫でてて欲しいな。
ずっとずっと、一緒に居たいな。
 
 
今でも十分幸せなのに、そう思ってしまうのは願ってしまうのは……私の我侭でしょうか。
 
 
 
 
「私は、優しくなんてないですよ……」
「そんな事ないよ?」
「さ、悟史くんの方が、とっても優しいです…!」
「…そんな事、ないよ」
 
 
どうしてそんな悲しそうな顔するの。
そんな顔、見たくない。だから………私は正面から、悟史くんに抱き付いた。
 
 

「わっ……し、詩音……っ」
 
「そんな事言わないで下さい…!」
 
「むぅ……ごめん。悪かったよ。もう言わないから…」
 
「…本当ですか?」
 
「うん」
 
「じゃぁ、許してあげますー!」
 
 

ぱっと悟史くんから離れて、今度は彼の腕に自分の腕を絡める。
悟史くんは真っ赤な顔で、頬を指で掻きながら照れていた。うん、可愛い。
 
後ろから抱きつかれるのには慣れても、正面からはまだ慣れていませんよね〜?
もう、悟史くんったら本当に素敵。可愛くてカッコよくて、きゅんきゅん☆
 
 
 
「あっ、詩音!!」
 
「えっ?あれ?悟史くん??」
 
 
悟史くんはいきなり道端の隅っこに蹲ると、何かを嬉しそうに指差している。
私も慌てて近づいて、悟史くんの指差した場所を見ると…
 
 
「あー……よく見つけましたねぇ、悟史くん!」
 
「うん、珍しいよね…!」
 
 
彼が指差していたのは、四葉のクローバー。
三葉のクローバーなら探せば5万とあるだろうが、四葉を見つける事は難しい。
 
不意に、小さい頃魅音と一緒に四葉のクローバーを探した記憶が蘇る。あの時は、結局見つけられなかったけど……。
 
 
「…私、初めて見ました。四葉のクローバー」
 
「えっ?そうなのかい?」
 
「えぇ。悟史くんは見たことあるんですか?」
 
「うん、一度だけ。沙都子にごねられて、昔四葉のクローバーを探しまくった事があるんだ。その時ね」
 
「…そうなんですか」
 
 
悟史くん、本当に嬉しそうだな。
四葉のクローバーを見つけたら幸せになれるっていうじゃない?
だから、四葉を見つけた悟史くんが、もっともっと幸せになれますように……!
 
 
 
 
「詩音、四葉のクローバーあげるよ」
 
 
 
 
悟史くんは笑顔で、私に四葉のクローバーを差し出した。
私はえっ?と、一瞬驚いてしまって、そんな私の様子を見て、悟史くんはむぅ…と言った。
 
 
「…いらないかなぁ?」
「そ、そうじゃなくて!いいんですか?貴重ですよ?国宝級ですよ?四葉のクローバー!」
「詩音は知ってる?四葉のクローバーを持っていると幸せになれるって」
「え、えぇ……」
「だから……その……えっと……」
 
 
悟史くんは顔を赤らめて、そのまま私に四葉を手渡すと一人で歩き出してしまった。
私は慌てて後を追う。
 
 
「悟史くん、ちょっと待ってくださいよーっ」
「むぅ……」
「…本当に私が貰っちゃっていいんですか?」
「うん、詩音にあげたいんだ」
「…………。」
 
 
最初は戸惑ったものの、私は観念して、素直になる事にした。
 
 
 
「ありがとう、悟史くん……」
 
 
「どういたしまして」
 
 
 
彼がくれた四葉のクローバーを見ながら、私は微笑んだ。
今ね、小さな幸せを見つけたよ。
悟史くんと一緒に居ると、たくさん見つかるの。
 
ただこうやって歩いているだけで、
ただこうやって笑っているだけで、
 
ただこうやって………傍に居るだけで。


ふわりと、優しい風が2人を包み込む。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
僕は風が好きだ。
 
何だか、優しい風に当たっているとね、幸せも一緒に運んで来てくれるような気がするから。
 
 
 
 
 
 
 
 
 





>>あとがき
 
詩音は悟史から貰った四葉のクローバーをしおりにして、大事に本に挟んでいると良いと思います!
 
悟史と詩音は本当に切ないCPなので、とりあえずこういうほのぼのラブラブな感じが凄く書きたくなります。
逆に、幸せいっぱいラブラブなCPだったら、シリアス方面に向かうのが私の傾向。天邪鬼!!
最初は詩音に振り回されっぱなしな悟史だけど、
だんだんと余裕が出てきて、逆にイニシアチブが取れるようになっていくんじゃないかな、と。(そうだと凄く萌える)
 
 
四葉のクローバーの花言葉。
アメリカでは『私のものになって、私を想って下さい』だそうです。
悟史が詩音に四葉を渡した理由は…………きゅんきゅん☆なーんて妄想してました。(1人でな)
 
っという訳で、ここまで貴重な時間を使って読んでくださってありがとうございました…!
 
-2008.11.27-
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