もう、ひとりぼっちじゃない。
でも……たまに、本当にたまに、耐え切れないほど寂しくなる時があるんだ。

(そういう時、僕はどうすればいいのか分からなくなる。)
 
 
 
 
 
 
 
 
温 度 差
 
 
  
 
 
真夜中、私は突然聞こえたチャイムの音で目を覚ました。
布団の外は酷い寒さで、無意識に出るのを躊躇ってしまう。今日は雪が降るかも、とニュースで言っていた。
ふと窓の外を見れば、ひらひらと雪が降っている。
 
 
 
雛見沢は、積もるかもしれないな。
 
 
 
と、不意に思った。そんな時、またチャイムが。
こんな真夜中に訪ねて来る友人を私は知らない。非常識もいい所だし、何より近所迷惑。
私はため息をつきながら、ドアの前まで足を進める。
そして、ドアごしに“真夜中に訪ねて来て近所の迷惑も考えずにチャイムを押す非常識な人間”に向かって声をかけた。
 
いきなり叩き起こされた恨みも伴って、かなり不機嫌な声で。
 
 
「………はい。どなたです?」
 
「詩音、僕………」
 
「………えっ?さ、悟史くん!?」
 
 
聞き間違えるはずがない。私は慌ててチェーンを外し、ドアを開けた。
すると、外にはぎこちない笑みで微笑んでいる悟史くんが居る。肩には軽く雪が積もっていた。
外から吹き込む風は、凍えるほど寒い。でも、それよりも悟史くんに会えた喜びの方が大きくて、私の心は踊る。
不機嫌?いいえ、今の私はご機嫌です。
 
 
 
「ど、どうしたんですか!?こんな真夜中に……」
 
「むぅ……ごめん。迷惑だとは思ったんだけど……」
 
「そ、それより!そんな所寒いですから、早く中に……」
 
「ありがとう」
 
 
 
悟史くんはそう申し訳無さそうに笑って、玄関で軽く肩の雪を落とし、部屋の中に足を踏み入れた。
何を言えばいいのかよく分からず、2人とも暫し黙っていたが、その沈黙に耐えかねて、私が話を切り出した。
 
 
「えっと……あ!コーヒーでも入れますね。外寒かったでしょう……」
「……………。」
「それとも紅茶がいいですか?とにかく何か温まるものを……」
「………詩音、」
「どうかしました?さと……」
 
 
 
台所に向かおうとしていた足を止め、
 
振り向いた瞬間――――ぎゅっ、と後ろから抱き締められた。
 
 
冷たい身体……きっと、ここまで歩いて来たんだろうな。
彼の身体がかすかに震えているのは、寒いからだろうか。だったら、早く温かいものを……
そう思ったが、私は口に出さなかった。
 
ただ、このまま時が止まってしまえばいいと、思った。
 
 
 
 
 
「詩音、どうして僕がここに来たのか聞かないの……?」
 
 
 
 
 
擦れたような声。……どうしたのかな。
何かあったのだろうか。悟史くんが私をこんな形で訪ねて来るのは珍しい。しかも、こんな真夜中に。
 
 
「…何かありました?」
「うぅん、何もないよ。」
「じゃぁ、どうして……」
「詩音に会いたくなったんだ」
 
 
非常識だという事も、近所迷惑だという事も重々自覚していた。
普通なら怒られて押し帰されてもおかしくない状況だ。それなのに、詩音は僕を中に招き入れてくれた。
外は寒かっただろうと、温かい飲み物を入れてくれようとさえしてくれた。
 
 
 
 
 
(どうしても君に会いたかった ―――。)
 
非常識でも、カッコ悪くて情けなくても、それでもいいから、君に………。
 
 
 
 
「………悟史くん?」
 
 
 
 
君の温かさに触れたかったんだ。
 
悟史は更に抱き締めている力を強くして、詩音の髪に顔を埋めた。
いい匂いがする……ふんわりとしたシャンプーの香りが鼻孔をくすぐり、少しだけ照れくさい。
詩音は、そんな悟史の掌の上に自らのそれを重ねた。………………温かい。
 
 
「悟史くん、手冷たいです」
「詩音はあったかいね」
「そりゃそうですよ。私ついさっきまで、夢の中だったんですから」
「むぅ……ごめん」
「許してあげます。ただし、どうしたのか教えてください」
「……………うん、」
 
 
急に、夜中に目が覚めた。
そしてとても寂しくなった。自分の部屋で1人きりでいるのが、とてつもなく怖く感じたんだ。
でも、どうすればいいのか分からなくて。
どうしたらこの寂しさが埋まるのか、分からなかった。
 
 
(詩音に、会いたい………。)
 
 
いつも辛い時や悲しい時、寂しい時に傍に居てくれたのは詩音だ。
だから、きっと詩音ならこの寂しさを埋めてくれる。
こんな夜中に訪ねていくなんて、非常識も甚だしい。でも、詩音ならきっと許してくれる、そう思った。
 
 
 
 
「…………ごめん。」
 
 
 
 
でも、やっぱり非常識だった。そう思って、悟史は謝った。だが、詩音は微笑んだままだ。
 
 
「悟史くん、私嬉しいです」
「えっ……?」
「私のこと、頼ってくれて」
「…………。」
「いいんですよ、甘えても。ちょっとくらい、迷惑かけてもいいじゃないですか」
「でも、」
「もう、私がいいって言ってるんですからいいんです!」
「む、むぅ………」
 
 
背中ごしに伝わる貴方の体温は、冷たい。
でも、心はとても温かいんです。それは、私達の温度差。
(悟史くんは身体は冷たいのに、心は温かい。私は身体は温かいのに、心は冷たい。)
 
 
 
 
でも、変だね。
 
悟史くんとこうしていると、私の心は温かくなるの。
 
 
 
 
 
しばらくすると、悟史くんは私を離してくれた。
その頃になると、悟史くんの身体もだいぶ温まっていて。それから紅茶を飲んだ。
 
2人で。紅茶のおかげで、身体の心まで温まる。
 
 
 
「温かいな………」
 
「紅茶がですか?」
 
「うぅん、詩音が」
 
「えっ………?」
 
「やっぱり、詩音に会いに来て良かった」
 
 
 
そう微笑む悟史くんの笑顔は、最高に素敵で、私は直視出来なくなり、慌てて窓の外へと視線を移す。
外は先程と同じく、空からひらひらと雪が舞っている。
 
明日は、きっと積もるだろう。……ふと、そう思った。
 
 
 
 
「ありがとう」
 
 
 
 
詩音が居てくれて、良かった。
 
 
 
 
「さぁて、悟史くんが私にかけた迷惑……身体で払ってもらいましょうか!」
「えっ………?」
「覚悟はいいですよね、さ・と・し・く・ん♡」
「む、むぅ……!」


 
 
 
 
温 度 差
 
(僕の凍った心を溶かしてくれる。そんな君が、そばに居てくれて、良かった。)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
>>あとがき
 
テーマは「温度差」……あんまり関係ありませんでした\(^o^)/
何かとりあえず冬っぽいものと、悟史の我侭っぽいものを目指して。
 
真夜中に非常識にもチャイムを押す悟史きゅんとか、イライラしながら返事をしてみると、悟史だったので、
一気にイライラが吹っ飛び上機嫌になる詩音さんが書きたかったのです。
うん、大満足です。出来は別として!!←
 
たまーに寂しくなって、悟史が詩音に会いに行く、というシチュレーションは萌えます。
え?沙都子叩き起こせばよくね?と思うと思いますが(私も思う)、まぁ、細かい所は置いといて。
何か正直言うと不思議な出来でどうしよう!?です。
気に入ってるのか気に入らないのか分からない………
 
では、ここまで貴重な時間をこの小説を読むために、使ってくださってありがとうございました!!
 
-2009.02.06-
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