落ちる――――。
堕ちていく――――――。
(私の世界の中心は、貴方でした。)
美 し く 咲 い た の は 、 赤 い 花
足が滑りマンションの非常口から落ちた。
人は落ちる時、周りがスローモーションに感じて、
今までの思い出がまるでフラッシュのように思い浮かぶと言うけれど、今の私はまさにそれだった。
落ちている感覚の中、次々に思い出が蘇る。
それは、惨劇の記憶?違う。全然違う。
私の頭に浮かぶのは、貴方の笑顔だけ。
初めて会った時、頭を撫でてくれた時、一緒に買い物に行った時、野球の応援に行った時、
次々に蘇る、貴方との思い出。笑顔。………温かさ。
今はもうない、手を伸ばしても届かない、何をしても取り戻せない……大切な思い出ばかり。
犯した罪を代償に、どうか彼に会わせてください。
少しだけでいい。
一目だけで、いい。
声だけでもいいから、どうか。
私の罪が代償にならないというのなら、
これが犯した罪の報いというのなら、酷すぎるじゃないか―――――。
私の全てを捧げても、貴方に会うための対価にはならなかった。
人生も、未来も、家族も、友人も、もう一人の自分さえ、手離したのに―――――。
そういえば、私には夢があった。
大好きな人のお嫁さんになって、幸せな家庭を築くこと。
年を重ねるたび、その夢はどんどん遠くなっていった。自分の立場に絶望し、夢や希望もない生活。
でも、貴方に会えてから私は変わった。
幸せな家庭?いいえ、貴方の傍に居られるだけでいい。
ただ、近くに居るだけの幸せ。それでも、私にとってはかけがえのないものだった。
他を全て捨てても、貴方に会いたかった。
貴方が好きだというこの気持ちだけを残して、私は全てを捨てたのだ。
落ちる――――。
堕ちていくのは、私――――――。
でも、貴方は居ない。ここには居ない。じゃぁ、何処に居るの?
今はそれさえも、分からない。
貴方は精一杯生きた。
私も精一杯生きていたはずだった。
何処で間違えたのか分からない。
だって、私は貴方に会いたかっただけなのに。
他は何も、望んでいなかったのに。
復讐、果たせなかったね。
ごめんね。
でも、私頑張ったんだよ。
誉めてとは言わない。言えない。でも、貴方が好きだという気持ちだけは本当だったんだよ。
ありがとう、最愛の人。
ごめんね、ずっと好きでした。
さよなら、本当に大好きでした ―――――。
美しく咲いたのは、赤い花
(花びらが堕ちていく。貴方に近づこうとすればするほど、何故か遠く離れていくの。)
>>あとがき
目明し編イメージ。何だか急に書きたくなりました。
圭一を刺して、マンションから落ちて、そのまま受け止められずに地面に落ちたとしたら……
その数秒間のイメージです。原作の目明し編では下の階の屋根に受け止められて、
自分のしてきたことを振り返る時間があるんですけど、もし、無かったら……の話。
だから↑ではあまり悔やんでないみたいな。
振り返る時間がないのなら、せめて最愛の人のことを思い浮かべて欲しいという願いです。妄想です。
では、ここまで貴重な時間を使って読んでくださってありがとうございました☆
-2009.03.26-