は  万  病  の  も  と
 
 
 
 
 


レナが風邪で倒れた。その知らせを聞いた俺は、
迷った挙句、急いで見舞い品を手に入れるため興宮まで自転車を走らせ、八百屋でメロンを買い求めた。
何故メロンなんていう思いっきり平凡で普通なものを手に入れたのかというと、こんな急にレナのかあいい基準に見合うものを
手に入れられる気がしなかった、というある意味の妥協だったりする。
 
しかし、いざレナの家に来て見ると……
 
 
「あっ…圭一くん、来てくれたんだね…」
「なぁ、レナ……俺はお前が“風邪で倒れた”と聞いて駆けつけてきたんだが……」
「はぅ………?」
「な、何で外で洗濯物干してるんだよ――っ!!」
「圭一くんは元気だねぇ」
「そーいう問題じゃねぇっ!風邪は大丈夫なのかよ!?」
「大丈夫だよ…ちょっと微熱が……ある…だけ……」
「レナっ!?」
 
 
庭先で倒れたレナを何とか家の中に運び、ソファに寝かせる。
何故ソファに寝かせたかというと、
あんまり勝手に人の家の中を歩き回るのは気が引けたのと、レナの部屋は2階だからだ。
いくら俺でも、人1人を2階まで運ぶ腕力はない。…それに、もし途中で落としたりとかしたら大変だ。
ふと、苦しそうに肩で息をしているレナのおでこに手を当てる。って、熱っ……おいおい、今までこれで洗濯してたのかよ。
 
「レナ、これの何処が微熱だよっ」
「だ、大丈夫だよぅ…さっき計ったら37.2℃だったから……」
「これが37.2℃な訳ないだろ!?もう1度ちゃんと計ってみろよ…!」
「うん………」
 
そして、もう1度体温計で計らせた所、38.7℃もあった。動いているうちに熱が上がってしまったらしい……。
洗面所でタオルを借りて、氷水を入れた袋をそのタオルで包んでから、レナのおでこに乗せた。
 
 
 


「ありがと、圭一くん……」
「ちゃんと寝てないと駄目だろ?」
「はぅ……洗濯物が溜まってたから…」
「レナの親父さんは?」
「…最近、仕事を探しに行ってて昼間は居ないの」
「そうか……じゃぁ、俺が残りの洗濯物干して来てやるから、レナは寝てろ」
「で、でも……」
「いいから、レナは洗濯物よりも風邪を治す方が先だ」
「うん………」
 
 
 
レナをそのままソファに寝かせ、俺は外でさっきまでレナが干していた洗濯物の続きをする事にした。
にしても今日は暑いな……眩しい太陽の日差しに目を細めながら、俺は籠の中に積まれた洗濯物を手に取る。
パタパタ、としわにならないように気をつけながら1つ、また1つと干した。
慣れない家事仕事に、思ったより時間と体力を消耗し、籠の中が空になった頃にはおれは完全に疲れ果てていた。
 
 
 
(母さんもレナも、毎日こんな重労働してんのか……)
 
日頃の母親の家事仕事に心底感謝しながら、家の中に戻る。
レナの様子を見に行くと、さっきよりも熱が上がったのか、全身に汗をかいて、見るからにしんどそうだ。
レナのおでこに乗せた氷も、もう溶けて完全に水になっている。
 
 
「レナ、大丈夫か?」
「はぁ…圭一くん………」
「監督呼んだ方がいいな、こりゃ」
「でも……」
「いいから」
「ごめんね………」
「ちょっと、電話借りてもいいか?」
「うん………」
 
 
監督に電話をすると、今監督は診療所に居ないらしい。
雛見沢は老人が多いため、監督は診療所に毎日通えない人のために、ほぼ毎日巡回しているのだ。
戻ったらすぐに向かう様に伝える、と言われてひとまずホッとして受話器を置く。
 
レナの所に戻ると、とりあえずおでこに乗っている溶けきった氷水に、また新しく氷を入れて再び乗せた。
 
 
 
「あ、ありがと………」
「監督、ちょっと時間かかるけど来てくれるってさ」
「そっか………」
「だから、ゆっくり休んでろ」
「……あの、圭一くん…………」
「なんだ?」
 
 
レナは熱で真っ赤な顔を、更に赤くしながら言いにくそうに、小さな声で呟く。
 
 
 
 
 
「監督が来る前に……着替えたい、の……駄目かな。…かな?」
 
 
 
 
 
そう言われてみれば、と視線を下に移すと俺の顔も熱に浮かされたように真っ赤になった。
レナは熱のせいで大量に汗をかいていたから…もちろん………。
 
 
 
「あっ………」
 
 
「駄目………かな?」
 
 
 
って、本当にかわいいなぁ―――くそっ!!
 
今日のレナは最高に可愛い。
熱があるのは分かってるんだが、この可愛さは罪だぜ…っ、理性が飛びそうだと思ったのは一体これで何度目だ?
 
 
 
「そ、そうだな……」
「あの、隣の部屋にパジャマがあるから取ってきてくれない…かな…?」
「お、おおおう!」
 
 
やべっ…変に意識しちまって上手く口が回らない。
ギクシャクしながらとりあえず隣の部屋に行ってレナのパジャマを手に取る。
 
 
「これでいいか?」
 
「う、うん……ありがと」
 
「どういたしまして」
 
「じゃぁ、あの…後ろ、向いててくれるかな…?」
 
 
 
 
後 ろ で す か ! ?
 
 
部屋から出てけ、とかじゃなく後ろ向いてるだけでいいんですか、レナさん!?
俺はいたって健全な男子生徒だぜ!?
ちょっと振り向いて、そのまま………何かするかもしれねぇんだぞ!?(いや、絶対しねぇけどさ多分。)
 
 
同い年の可愛い女の子がすぐ後ろで着替え……ちょ、俺何も考えるな!!無心になるんだ。
そうだ、何を意識する必要がある。もうすぐ監督が来るから、それで……濡れた服を着替えるためにだな。
うん、それで着替えるだけであって、特に他に意味などないじゃないか。
そうだぞ、ただ俺の後ろで今レナが着替えをして……………
 
 
 
………………。
 
 
 
「………圭一くん?終わったからこっち向いてもいいよ?」
「い、いや…もうちょっと……」
「………どうして、前かがみなのかな。…かな?」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「ありがと、圭一くん!」
「どうだ?調子は」
「ちょっとだけ楽になったみたい……」
「良かった」
「あの…圭一くん………」
「どした?」
 
 
 
 
 
「レナの手、握っててくれないかな………」
 
 
 
 
 
レナが俺の前に手を差し出す。俺は一瞬ビックリしたが、すぐにその手を握り返してやった。
すると、レナはうっすらと微笑む。
 
 
「圭一くんの手、冷たくて気持ちいいね……」
 
 
そう言って、レナは俺の手を頬まで持っていくと、そのまま目を閉じた。
 
 
 
レナはしばらくすると、すやすやと寝息をたて始める。
熱があるんだから安静にして、眠っていた方がいいに決まってる。
それなのに、俺は少しだけ寂しかった。
 
 
 
「レナ…早く元気になれよ」
 
 
 
早く元気になって、また一緒に部活しような。
汗で頬に張り付いたレナの髪を、手ですくって、そのままおでこに口付けた。
 
 
 
 
その時、
 
 
 
「竜宮さ―んっ!回診に来ましたよーっ」
 
 
 
突如後ろから監督の声が聞こえて、俺は思わず飛び上がる。
 
 
「あっ、前原さん!さっきは電話どうも……」
「は、はい……」
「遅くなってしまってすいません」
「いえいえいえ、俺としてはもっと遅く来てくれても良かったかなぁ〜って…あははははは」
「はい?」
 
 
 
 
 
 
 
翌日、レナはすっかり体調が良くなったそうだ。

恋 は 万 病 の も と
 
 
 
 
 
 
 
 
 
>>あとがき
 
かなり前に書いたものを掘り起こして見ました(笑
何となくベタだなぁ、圭レナ萌えるなぁという訳で放置だったんですが、せっかくなので表に出す事に。
既にたくさん出ていそうなので内心実はドキドキです。
タイトルの「恋は万病のもと」ってかすっているようでかすっていない。
 
では、ここまで貴重な時間を使ってくださりありがとうございましたー!
 
-2010.02.24-
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