エ イ プ リ ル フ ー ル の 愉 快 犯
4月1日
監督から連絡があった。悟史くんの容態に変化があった、と。
急いで家を飛び出して、診療所に走った。
ああ、もしかしたら、今日こそ悟史くんが目覚めるのかもしれない……!と、期待を込めて。
でも、今までにも、何度も同じようなこと、あったの。
監督は私に気を使って、少しでも悟史くんに回復の兆しが見えたら、私に連絡してくれる。
その度に駆けつけて、ずっと傍に付いていて。でも、目覚めない。
瞼1つ動かさないで、悟史くんは眠り続けている。
その度に、監督は私に謝る。「期待させて、すいません。」って。私もその度に笑顔で答える。
「いいえ、連絡してくれるだけでも有り難いです。また何かあったら、私にすぐに教えてくださいね。」
ほんの少しでも、ほんの一時でも、彼が目覚める夢を見ていたい。
その夢が終わり、落ち込んだり凹んだりすることが分かっていても、私は悟史くんが起きるのを待っていたいのだ。
止めようと思えばいつでも止められる。
私は、悟史くんを待つのを止め、新しい場所に1歩を踏み出す自由を持っている。
でも、敢えてそれをしないのは、私にとって悟史くんが、誰よりも何よりも大切な存在だから。
私の人生全てを賭けても、彼と再び会いたい。
も う 1 度 、 会 い た い 。
だから、私はまた走る。彼の元へ、一刻も早く会いたいから。
不安と期待が心の中で同居している。今回、本当に悟史くんは目覚めてくれるのだろうか?
目覚めた彼は、私の事を覚えてくれているだろうか?
ほんの少しでも、私は彼の記憶に残っているだろうか?
目覚めない不安よりも、そっちの不安の方が圧倒的に多いんだよ。
私は、あなたの事を、一日たりとも忘れたことはないけれど、
あなたは私の事を、覚えてくれていますか?
いつものように、悟史くんの身体には無数のチューブと治療の跡が伺える。
痛々しくて、出来るなら代わってあげたい。監督が気を効かせたのか、2人きりにしてくれた。
私は悟史くんの傍に座って、彼の手を握り締めて目覚めを待つ。
しばらくそうしていると、彼の瞼がぴくりと動いた。
「悟史くん…………?」と、呼びかけるとゆっくりと重い瞼が上がって、優しい色をした彼の瞳が見えた。
「詩音………………?」
そして、彼は私の名前を呼んだ。優しく、そしてそのまま「好きだよ。」って。
そう、この出来事は全て全て、私の嘘。
だって、彼はまだ目覚めていないし、今現在も診療所で眠り続けている。
全部嘘なの。私の妄想。今日はエイプリルフール。………信じちゃいました?(笑)
詩音は机でさっきまで書いていたノートを乱暴に閉じた。
そして、そのまま背伸びをして立ち上がる。
今日の日付は4月1日。エイプリルフールになったばかり。時計の針は0時15分。
「くっだらない…………」
誰が作ったものなのか知りませんけど、人間って流行とかイベント大好きですからね。
ついつい私もノリでやっちゃいました。気分?あんまりいいものではありませんねぇ……
やっぱり嘘をついていい日、なんて作るもんじゃありませんよ。
「………………。」
でも、きっと悟史くんなら、嘘をついても笑って許してくれるんだろうな。
それなら、エイプリルフールも楽しいかもしれない。
………こんな日記で付いた、自分への嘘なんかより、よっぽど。
どうせ、今日の部活メンバー達はお互い嘘を付き合って笑うんだろう。
便乗しに行こうか、それとも眠り続けている悟史くんに嘘をつきに行こうか………両方、かな?
そう、こんなイベントくだらない。そう言いつつ楽しむ気満々の私。
だって、他人を騙すだけじゃ飽き足らず、自分まで都合のいい嘘で騙そうとする。そんな私は、エイプリルフールの愉快犯。
>>あとがき
詩音が自分の日記で自分に嘘をつく、という話。
最初思いついたときは「すげーいいじゃん、これ!」と自画自賛状態でしたが、
実際書いてみると「………ないな、これ。」でした\(^o^)/
発想は悪くなかったはずなんですがね……(遠い目
それにしても前半の日記パートは難しいですね……勉強になりました(>_<)
そして、詩音の日記のところだけノートっぽくしようと工夫してみたんですが、思った以上に時間がかかりまくりました。
ただ線を入れるだけですが、余裕で30分以上かけてますorz
では、ここまで貴重な時間を使って読んでくださってありがとうございました!いいエイプリルフールを!
-2010.04.01-