6 人 目 の 友 達
 
 
  
 
 


ひたひた…
気配がするのに、振り返ると誰も居ない。誰も居ないはずなのに、絶対に誰かが………居る。

そんな経験、貴方はした事がありませんか……?

 

 

 

 

「あちぃ〜……」

朝の涼しいうちから、梨花達が住む古手神社に集合した部活メンバーたち。

もちろん、理由は言うまでもないだろうが、スクラップ帳の謎解きのためである。

「今日はほんと、いい天気だよなー」

俺こと前原圭一は、独り言のようにそう呟いた。

「本当ですわ…」

「確かに暑いねぇ!おじさんったら胸の谷間に汗が溜まっちゃって大変だよ〜」

「魅ぃ………?」

「あははは!…そういえば、羽入は?見当たらないけど」

「あぁ、羽入なら……」

今朝早く、皆が来るより前に羽入は『今日は詩音から教えてもらった、エンジェルモートの特大シュークリームパフェがなんと、半額の日なのですッ!
ボクはこの日をとっても楽しみにしていたので、朝早く並んで整理券をゲットしてきますです〜☆』っと言って、外出してしまっていたのだ。

「んー?半額の日って今日だったっけ…」

「って事は、今日の部活は羽入を除いて5人だな!」

「じゃぁ、ちょうどこの謎が出来るんじゃないかな?」

「ん?どれどれ……」


『6人目の友達』


「……6人目?」

「鷹野さんのスクラップ帳には、村長さんの証言が書かれているみたい。えっと…『5人で、校庭で影踏みをしていると、いつの間にか影が1つ増えている。』だって……」

「なるほど……それで6人目か」

「……あ、そうだ!私、今日婆っちゃに頼まれて、公由のおじいちゃんの所に用事があるから、ついでに本人から詳しく聞いてこようか?」

「それならボク達も行くのです。にぱー☆」

「そうだね!皆で行こう……!」

こうして、俺達5人は御三家の1つ・公由家党首であり、この雛見沢の村長でもある公由喜一郎の家を訪ねる事になった。

 

 

 

 

 

 

 

「こんにちはー、婆っちゃの代行で参りました、魅音です」

「おぉ、よく来たな。お魎さんから聞いとるよ。この手紙を渡してくれればいいから」

「ありがとうございます。ところで、公由のおじいちゃんにちょっと聞きたい事があるんですが…」

理由を話すと、村長さんは快く俺達を家の中に招き入れてくれた。

居間に通された俺達は、鷹野さんのスクラップ帳の『6人目の友達』のページを村長さんに見せる。

「ふむ、この事か…ワシが『6人目の友達』に会ったのは……確か、小学生の頃じゃ。」

「ってことはだいぶ昔の話ですね。」

「そうじゃな…ワシらの子供の頃は、今のような遊び道具はほとんどなくてな。よく、鬼ごっこや影踏みをして遊んで居たんじゃ」

「ふむふむ……」

「たいてい仲良し5人組で放課後遊んでおった。じゃが、そんなある日、影踏みで遊んでいる時、ワシは気づいたんじゃよ。いつの間にか、影が1つ増えている事に……」

「影が………?」

「うむ。もちろん人数を数えたら5人しか居ない。でも、やっぱり動き回っている時に影を数えると、確かに6人居る……」

俺達はゴクリ、と息を呑んだ。

村長さんは、昔を思い出して懐かしそうに微笑むと、

「だから、ワシらはその子の事を『6人目の友達』と呼んでおったのじゃ」

「そうだったんですか…」

「『6人目の友達』と会ったのは1度や2度じゃない。何度も何度も、影踏みをする度にワシらの前に現れた」

「なるほど……」

「もちろん気のせいかもしれない。ただの思い込みかもしれない…でも、ワシらにはどっちでも良かった。…もう、あれから何十年も経ったんじゃのう。」

「公由のおじいちゃん…」

「今、『6人目の友達』は何処で何をしているのか……」

窓の外を眺めながら、村長さんは少しだけ悲しそうに笑った。

「そういえば、若い頃のお魎さんは、今の魅音ちゃんや茜さんに負けないくらい美人じゃったぞ。」

「え……?や、やだなぁ!美人なんて…っ」

「魅ぃ、照れることないのですよ。本当のことです」

「梨花ちゃんまで…!」

「そうそう、胸を張ってもいいんだぜ?」

「け、圭ちゃん………っ」

「にぱー☆」

それから、俺達は村長さんにお礼を言って、そのまままっすぐ校庭に向かう事にした。

聞くより慣れろ、慣れるより実践だ。

村長さんが体験した時から、既に何十年も経ってしまったが……今も『6人目の友達』は現れるだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃぁ、ルール説明ね。鬼を1人決めて、影を踏んだら鬼交代!あと、影に入るのはOKだけど、10秒以内に必ず出ること。…それくらいかな?」

「いいぜっ、燃えてきたぁ!」

「さぁて、じゃぁ鬼を決めようか!」

学校の校庭の真ん中で、俺達はじゃんけんをした。

すると、俺の1人負け。

「ちぇー!俺が鬼か」

「圭一くん、頑張ってね!」

「時間は夕方までで、みんないいかな?」

「了解なのです☆」

「をーほっほっほ!私の華麗な影踏みテクを堪能なさいませ!」

「ボクだって頑張るのですよ」

「じゃぁ、スタート!!鬼の圭ちゃんは真ん中で30秒数えるんだよ〜!」

魅音の掛け声で、魅音、レナ、沙都子、梨花ちゃんは一斉に走り出した。俺は校庭の真ん中で、30秒を数え始める。

「1、2、3……」

今、太陽の日差しはちょうど、頭の真上にあって、ただ立っているだけでも額から汗が流れる。

雲ひとつない青空。おかげで、砂の上にくっきりと黒い影が出来ていた。

今日は、絶好の影踏み日和だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……28、29、30!!よし、いくぜえぇ!!!」

元気な声と同時に走り出した圭一。

そんな圭一を見て、他のメンバー達は笑いながら逃げていく。

「あーら?圭一さん、最近運動不足で足が遅くなったんじゃありませんこと?」

「なんだとーっ!」

「をーほっほっほ!そんな鈍足では、一生鬼のままですわー!」

「言ったな、この野郎!!」

俺をからかう沙都子を真っ先に鬼にしてやろうと追いかけるのだが、ただ追いかけるだけじゃ、俺の足では沙都子に追いつけない。

「くっそー…」

早くも息をはぁはぁと切らして、その場で一呼吸。

この暑い日差しの中、我武者羅に走り回るのは自殺行為だな、と考えていると、俺の頭で名案が浮かんだ。

「レナーっ!!今の沙都子を見てみろ!!」

「……はぅ?」

遠くで俺達の様子を見て笑っていたレナに大声で話しかける。

突然俺に話をふられたレナは、状況が上手く飲み込めず、ぽかんとしていた。

「今!沙都子は俺に追い掛け回され、太陽の眩しい日差しに彩られ、加えて!流れ出る汗が何とも言えないダイヤモンドのような輝きを放っている!
 そう、レナ……これをほっておくのか!?俺の目から見たら、レナのかぁいい基準にピッタリ当てはまるはずだ!さぁ、俺を信じろぉおお!!!」

よく意味の分かるような分からないような台詞を、オーバーリアクションでレナにアピールする。

レナも最初は頭にハテナマークを浮かべて困惑していたが、俺の口先の魔術(というかその場のノリ)にかかったようで、かぁいいモード発動!

「沙〜都〜子〜ちゃ〜ん、お持ち帰りィィイ!!!」

「なっ!?な……な!?」

「お持ち帰りィイ!!」

「どぉ〜して、私が鬼でもないレナさんに、追いかけられなければなりませんのー!?」

愚問だな、沙都子!その理由は多分追いかけてるレナ本人も分かってないぜ。

沙都子がレナに追い掛け回され、激しく体力を消耗したその時、俺は沙都子の前方に回り、

「かかったな!」

「卑怯ですわー!!」

後方にはレナ、前方には俺。追い詰められた沙都子!

勝った!っと俺が確信したその時、沙都子はそんな俺の一瞬の隙をついて、影を踏まれる前に近くにあった木の影にもぐりこむ。

「ちっ………!」

「はぁはぁ…レナさんを使うなんて、中々やるじゃありませんこと?」

「俺の手にかかれば楽勝だぜ。体力を使う時代は終わったのさ…これからは頭を使う時代だ」

「都会のモヤシっ子の遠吠えにしか聞こえませんわ!」

「それよりいいのか?沙都子。影には10秒しか居られないんだぜ〜?」

「うっ………」

10秒経って、沙都子が影から出てきた時が勝負!

「あと3秒…2、1………!」

その瞬間、沙都子が影から出てくる。そして、ほぼ同時に―――

「って、ぎゃ―――っ!」

俺の頭上からタライが落ちて来る。

突然の事で反応が遅れ、見事に俺の頭を直撃した。

「をーほっほっほ!みんなで楽しく影踏みしている最中に、タライが頭の上から降って来るなんて、運がありませんわねー圭一さんっ」

「沙都子の野郎〜〜〜っ!」

結局俺は沙都子には逃げられ、頭にはタンコブを作り散々な目に合ってしまった。

何故影踏みをしているのか。それは謎の事実確認のためである。

だが、俺達はその事を忘れて、純粋に影踏みを楽しんでいた。

そう、その時までは。

俺は決定的な何かに気づく前から、肌で異様な気配を感じ取っていたのかもしれない………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あ…れ………?

俺の視線の先には、レナと魅音。振り返れば沙都子と梨花ちゃんが居る。

何もおかしい所はない。

今、この校庭に居るのは俺達部活メンバーだけだ。

「…………?」

何がおかしいのか、分からない。

何もおかしくないはずなのに、絶対に何かがおかしい。

全身に嫌な汗が出る。

暑いからじゃない。何か得体の知れない何かと向き合っているような、恐怖。

「圭ちゃーん?」

「はっ……」

「どうかしたの?まさか、沙都子のトラップで変な所打っちゃったぁ?」

「い、いや、何でもない…!」

魅音に声をかけられて、俺は我に返る。

今はそんな事を考えている暇はない。これは部活だ。絶対に負ける訳にはいかねぇ!

再び逃げ回る仲間達を追いかけようと、走り出したその時―――

ザッ……

「…………っ!!!」

背後で物音がして、バッと後ろを振り返る。誰も居ない。

いや、誰も居ないはずがない。人の気配がする……

「気のせいか…?いや、でも……」

でも、やっぱり人の気配がするのに。

そんな考えを振り払うように、俺は再び走り出した。

だが、どうしても気になってしまう。

みんなの影を追いかけながら感じる、違和感に。

あれ………?

あの影がレナで、あっちが魅音。…それで、あのちっこいのが沙都子で、その横が梨花ちゃん…だよな?

何も変じゃない。

何もおかしくない。

でも違和感が、消えない。

「圭ちゃんは、もうずーっとこのまま鬼かなぁ?」

「うるせ―――っ!」

「あははは!」

「圭一、こっちなのですよー☆」

「捕まえられるもんなら、捕まえてみろ、ですわ!」

あれ……?

あれ?

あの影はレナ。

あっちは魅音。

それで、こっちが沙都子。

あれが梨花ちゃん。

そして、この影が俺………………

「…………居る。」

俺達以外が、誰か居る。

間違いない。

だって、俺達以外の誰かが居ないと、

俺の視線の先にある、あの影は…………誰だ?

不思議と恐怖を感じないのは何でだろう。いや、むしろ温かいのはどうしてだろう。

得体の知れないモノが居る。

それはとても怖くて、とても恐ろしい事なのに、どうして温かいんだろう。

まるで優しい風のようで、でも、儚くて切ない光のような何か……

「そうか………お前が……」


『6人目の友達』


村長さんの言ってた、6人目の友達なんだな。

そうと分かったらやる事は1つ。俺が狙うのは『6人目の友達』のみ―――!

俺は、素早く辺りを見渡して他の部活メンバーの位置を確認する。

レナと魅音、沙都子と梨花ちゃんはあそことそこ!

あと、もう1つの影は…………次の鬼は『6人目の友達』だ。俺たちに正体を見せてみろ!

大丈夫だ。

たとえ、俺達の目には見えなくても、ここに居るんだから。

俺には分かる。

だから、大丈夫――――

その影だけを一目散に追いかけて、少しずつだが影が縮まっていく。

足の速さなら俺の勝ちだな!あと少しで追いつける……!この勝負は俺の………

「よし、踏んだぁあああ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あちゃー、捕まっちゃったかぁ」

「……へっ?魅音……?」

「圭ちゃんにしては頑張った方かな?」

「………。はっ!俺が、っていうよりも、魅音が最近、ちょっと太ったんじゃねぇのか〜?」

「なっ……なっ…!!」

「また胸が一回り大きくなったとかな。あははは!」

魅音は胸を素早く両手で隠す。

「うっ……圭ちゃんの…バカ………っ」

そんな魅音の頭をポンッと叩いて、俺は魅音から離れた。

魅音は俺がかなり距離をとったことを確認してから、両手を振りながらみんなに向かって叫ぶ。

「みんなー!次の鬼はおじさんだからねー!」

魅音が30秒数えている間、俺はずっと考えていた。

間違いなく、俺は魅音じゃない“誰か”の影を踏んだはずだった。

でも、いざ踏んでみると魅音で。でも、やっぱり踏んだのは魅音じゃなくて……

「にぱー☆」

俺が走っていると、梨花ちゃんが俺の横に笑顔で並ぶ。

「梨花ちゃん……」

「圭一は、誰を追いかけていたのですか?」

「えっ……?」

っという事は、梨花ちゃんも俺達じゃない“第三者”の存在に気づいていた?

やっぱり俺の感じた気配は、気のせいじゃない。

間違いなく、今俺達の中に混じって遊んでいる“第三者”が居る。

「ぷっ……あははは!面白いっ!!」

「えっ……?」

「やっぱり居るんだな、『6人目の友達』って……!村長さんの話は本当のことだったんだ!中々出来ねぇぜ、こんな体験!ほんと、面白すぎるぜっ!」

「圭一………」

俺がにかっと笑うと、梨花ちゃんも優しく微笑み返してくれた。

その後、魅音がレナの影を踏み、鬼が交代する。

レナから逃げていた俺達だったが、しばらく経ってレナが急に足を止めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………が………る。」

レナが独り言のように何かを呟いている。

だが、上手く聞き取れなくて、俺はレナに駆け寄った。

「……レナ?どうした?」

「………るよ」

「ん?」

もう1度問いかけて、レナの言葉に全身全霊を傾ける。

「私達じゃない誰かが、居る。」

レナの弱弱しい声に、俺は一瞬何も言えなかった。

そう、俺も感じていたから分かる。俺も、最初は怖かった。

目に見えない何かが居るのだ。当然といえば当然。

「大丈夫だ、レナ。」

「圭一くん……」

「ここに居るのは……『6人目の友達』は、何にも怖くないから」

「………うん。」

俺がそう言うと、レナは素直に頷いた。

俺達の様子が変だと気づいた、魅音達が慌てて駆け寄ってくる。

「…レナ?どうしたの?」

「どうかしたのですか?」

「お顔が真っ青ですわよ…・?」

「大丈夫…ちょっと、昔の事、思い出しただけ」

「レナ………」

「…大丈夫。…ね?大丈夫なんだよね、圭一くん」

「あぁ、当たり前だろ!」

俺が即答してやると、レナはぎこちないが微笑んでくれた。

事情を聞いた魅音たちは、苦笑しながら言葉を紡ぐ。

「おじさんもさ……さっき鬼をしてた時、感じたんだよねぇ」

「実は、私も……後ろに誰かが居るような気がしてましたわ。気のせいだと思ってましたけど…」

「…………。」

みんな、俺と同じように『6人目の友達』の気配を感じてたんだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫……」

優しく語り掛けるレナの視線の先には、誰も居なかった。

「レナには分かるよ。『6人目の友達』は、私の敵じゃないって事……」

そう、今ここに居るのは近くて遠い存在。

触れたくても触れられない。

でも、私にとっては絶対的な存在だから。

だからこそ思い出してしまった。

私が辛かった時のことを。雛見沢に来る前の……辛い日々を。

私には分かるよ。

他の人には分からなくても、私には分かる。

貴方は、壊れかけた私を助けてくれた。


「そこに居るのはオヤシロ様…だよね?」


『6人目の友達』の気配は、あの時感じた『オヤシロ様』と一緒だもの………

ザワ………

レナの視線の先には誰も居ない。

でも、誰かが居る。気配がする。俺も、みんなも、そう感じていた。

ただ、1つ困った事は、俺達にはこの気配がオヤシロ様かどうか判断出来ないのだ。

でも1度オヤシロ様に会った事があるというレナの証言は、ある程度信憑性がある……

「梨花ちゃん……」

困った俺は、オヤシロ様の巫女である梨花ちゃんに救いを求めた。

すると、梨花ちゃんはすぐに笑って、

「レナがオヤシロ様というのです。ボクも、そう思いますですよ」

「……そうだな。」

「梨花ちゃん、圭一くん……」

「俺はレナを信じる!間違いなくここに居るのは、『オヤシロ様』だ……!」

「そうだね、おじさんもそう思う!」

「私もそう思いますわ!」

「にぱー☆では、影踏み再開なのですよ!」

「うんっ!ありがとう、みんな……っ」

レナの笑顔、輝いてるな。

やっぱり、レナは笑っていた方がいい。

それに、雛見沢の守り神『オヤシロ様』と影踏みか……。

おっと、間違えた。

今は、『6人目の友達』だったな……

「時間ギリギリまで、俺達と一緒に楽しもうぜ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふーっ、終わった終わった」

「楽しかったねー!」

「今日は沙都子のトラップ全段命中しましたですね☆」

「あれだけ見事に引っかかってくださると、仕掛け概がありますわ」

本当に終了する最後の最後、沙都子が鬼だった時に、圭一は沙都子がしかけた落とし穴にハマってしまい………。

「沙都子、今度覚えとけよ…っ!」

圭一がわしゃわしゃと、乱暴に沙都子の頭を撫でる。

「うわぁああん、痛いですわっ」

「あははは!まぁ、また1つ謎が解決できたから良しとするかっ!」

「うぅうう……?」

「にぱー☆沙都子、ふぁいと、おーなのです」

いきなり梨花が、何かを思い出したように足を止めた。

「あっ…ボク忘れ物したので、取ってくるです」

「えっ?梨花ちゃん大丈夫?」

「それなら、私も一緒に戻りますわよ?」

「1人で平気なのです。沙都子は、みんなと先に帰っておいてくださいです」

「分かりましたわ。」

「では、また明日なのです!」

「ばいばーい!」

「また明日ー」

梨花は皆と別れ、1人再び校庭に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「影踏み楽しかった?『6人目の友達』さん」

梨花は、校庭の真ん中に居る『6人目の友達』に語りかけた。

夕日の逆光で顔は見えないものの、それでも梨花もよく知る人物がそこに居た。

「…………。やっぱり梨花にはバレちゃってましたか。」

「当たり前よ。最初から検討はついてたわ。あんたと何百年一緒に居ると思ってるのよ」

「あぅあぅ、やっぱり梨花には敵わないのですよ……」

『6人目の友達』の正体は、確かにレナの言うとおり『オヤシロ様』だった。

「…ボクは、梨花に会うまでずっと一人ぼっちだったんですから。みんなと、遊んでみたかったんです。」

1000年以上の長い時の流れの中、ボクの存在に気づいてくれる人は1人も居なかった。

だから、梨花がボクに気づいてくれた時、本当に嬉しかったのです。

それまでは、誰かと一緒に話すことも、触れる事も出来なかったから。

だから、本当は、とてもとても寂しかった……。

「みんなと一緒に……走り回ってみたかった、だけなんですよ。」

だから、昔公由達と影踏みをしていた時、『6人目の友達』と呼んでくれたこと。

そして、ボクを仲間に入れてくれた事が嬉しくて堪らなかった。

だって、それはボクを1人の“友達”として認めてくれたという事だから。

「羽入………」

「でもっ…もう『6人目の友達』は必要ないみたいです」

羽入はにこっと微笑むと、梨花に向かって手を伸ばした。

「だって、今は堂々と……梨花と、みんなと遊べますから」

触れたり、笑ったり、泣いたり、走ったり、遊んだり……ずっと夢見ていたこと、今はこの手にあるから。

「……そうね。」

「梨花、ありがとなのです。ボクは今とても幸せなのですよ」

梨花は、羽入が伸ばした手に、自分の手を重ねた。

私達は運命共同体。

戦う時も、嘆く時も、笑う時も、ずっと一緒だった。そして、これからも………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よくよく考えてみれば、あんたなんで此処に居るのよ?」

「何がですか?」

「エンジェルモートに行ったんじゃなかったの?」

「そうなんですよ!!梨花っ、聞いてください…!」

「………何よ。」

「今日はエンジェルモート休みだったのです!」

「はぁ………」

「半額の日は、僕の記憶違いで明日だったのです…あぅあぅ、明日こそはなのです…!」

「…………。」

「梨花、聞いてるですか?」

「あー…はいはい!…気が向いたから、明日一緒に行ってあげるわよ」

「本当ですか!?やったのですー☆」

「ちょっ!くっつかないでよ!」

 

 

 

沈みかけた夕日が照らしていた2つの影は、――今までと同じように、いつまでも仲良く寄り添っていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
>>後日談
 
『雛見沢108の謎』という企画に投稿させて頂いたものの再録です!
もうリンクが切れてしまっているので、こちらに載せることにしました。自分ひとりだけではなく、みんなの力を合わせて108を完成させた、という思い出深い企画です。
そしてこれは結構お気に入りだったりします。いっぱいメンバーを書けたからかな?こういうわいわいしたものもいいなーと思います。
 
ではでは、ここまで貴重な時間を使って読んでくださってありがとうございました☆

-雛見沢108の謎 投稿作品-2009.06.28-
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